【自由な結婚】vol.9「卒婚という新しい選択肢」
結婚は自由だし、結婚をしない生き方もある。法律婚にとらわれない、いろいろな結婚のスタイルがあっていい――。
本連載【自由な結婚】では、そんなメッセージを伝えるコンテンツをお届けしていきます。vol.9では、2018年下半期に話題になった「卒婚」をテーマに取り扱います。
卒婚は、ふたりの新しいあり方
結婚でも離婚でもない、新しい夫婦の形「卒婚」。この言葉が突然注目を集めたのは、2018年11月末でした。
河野景子さんとの離婚を発表した元貴乃花親方が、「夫婦として卒婚ということです」「お互い結婚を卒業しようということで、ふたりで決めました」と口にしたことで、一躍話題に。しかし厳密には元貴乃花親方の場合、離婚をしているので上記の定義に照らし合わせると、卒婚ではないといえます。
それでも長年連れ添い、支え合ってきたふたりがよりよい道を選ぶという意味では、卒婚と言ってもおかしくはないと思います。
そんな卒婚の事例を集めた本『卒婚のススメ』(杉山由美子、静山社)を読みました。こちらは『卒婚のススメ』(オレンジページ/2004年)を加筆・修正し、2014年に刊行されたもの。卒婚という言葉や考え方は、今から15年近くも前からあったのだな、と驚きました。
断ち切らず、家族のままでい続ける
ここには、夫婦生活が後半戦に差し掛かり、卒婚という道を選んだ6組のカップルが登場しています。具体的にはこんな夫婦たちです。
夫と妻、各々の仕事のために、東京と金沢で別々に暮らすふたり。
別居結婚を経て、夫が妻の仕事を全面的にサポートする側にまわったふたり。
専業主婦だった妻が世帯主となり、夫が自由業になったふたり。
子育てが一段落したあと、夫がボランティア・研究に邁進しているふたり。
夫の婚外恋愛を経て、再び関係を取り戻したふたり。
事実婚を貫いているふたり。
著者が卒婚に対して持っている認識を引用してみましょう。
「結婚を卒業する。それはともすると重しのようにのしかかってくる結婚をはねのけて、自分らしく生きるひとたちの姿。卒婚には五月の爽やかな風が吹き抜けてくるような響きがある(7ページより引用)」
「卒婚は、それまでの緊密な家族から、ひとりひとりがちがうことを理解し、ちがうことに興味をもち、ちがうことを考えていることを認め合う。いつもいっしょではない。はなれて暮らしてもいい。ちがう場所を旅してもいい。でも家族だから、支え合っている(8ページより引用)」
まさにこれらに該当する夫婦の、試行錯誤してきた歩み・失敗談・うまくいったことなどが、精緻なインタビューを通してまとめられています。
離婚を経験した私が思う卒婚のメリット
長い間、パートナーとして、子どもがいる夫婦は親として、家族というチームとして過ごしてきたカップルにとって、離婚というものは超・最終手段だと思うのです。
どちらかが心身共に追い詰められてしんどさを感じていたり、「今すぐ別れてしまいたい」「もう一緒に生きていくのは無理」「相手のことが大嫌い」「新たに好きな人ができた」などの思いがあったりするなら話は別。
しかし、そうでなければ離婚とは異なる卒婚を選ぶのが、お互いにとってポジティブな解決策ではないでしょうか。
卒婚のメリットを考えつくだけ書き出してみます。
・ ひとりひとりが自分の人生を優先して生きられる
・ 役割にとらわれずに過ごせる
・ 家族という“味方”を絶やさずにいられる
・ 家族がいる、という安心感がある
・ たとえ一緒に住まなかったとしても、ゆるやかなつながりを持ち続けられる
・ 離婚届を出すわけではないので、住まい方が変わったとしても、外から見たときの関係性は変わらない
夫婦の在り方を自由に調整するのが卒婚
家族、夫婦という“箱”はそのままにしつつ、夫婦の在り方という“中身”を自分たちなりに考えて、よりよいものにチューニングしてみる――。それこそが卒婚という、従来の結婚(法律婚だけでなく、事実婚を含む)にとらわれない生き方なのだと思います。
これからはカップルそれぞれが、自分たちが理想とするパートナーシップを手にする時代がやってくるはず。
夫、妻といった役割にハマりすぎるのではなく、自分たちが心地よいと感じる関係を作ろうとする人たちも、増えていくと私は思っています。
そんなニューウェーブにふさわしい、卒婚という概念。表面的な言葉だけでなく、そのニュアンスも社会に広く伝わっていくことを願います。