【自由な結婚】vol.4「夫婦別姓にして、不都合に感じたことはありません」

結婚は自由だし、結婚をしない生き方もある。法律婚にとらわれない、いろいろな結婚のスタイルがあっていい――。
本連載【自由な結婚】では、そんなメッセージを伝えるコンテンツをお届けしていきます。vol.4では夫婦別姓(事実婚)を13年続けている小野美智代さんにお話を伺いました。


世界のスタンダードは夫婦同姓じゃない

小野さんは夫と2人の娘さんとの4人家族。過去に挙式と披露宴を執り行いましたが、婚姻届は出していません。法律婚ではなく事実婚。それが小野さん夫婦のスタイルです。
日本では、「結婚した夫婦は同じ姓を名乗らなければいけない」と民法で定められています。およそ96%の夫婦が、女性が男性の姓を名乗るかたちで、自身の姓を変えています。
夫婦同姓を強制する根拠としてよくあがるのは、「夫婦は同じ姓でなければ夫婦になる意味がない」「家族の絆が壊れる」「子どもの姓が片方の親と違うのはいかがなものか」といったもの。一度は耳にしたこと、ありませんか?

「別姓を選択できていたら、法律婚できたのですが」

実は夫婦同姓をマストとする国は、世界を見渡しても日本だけ。夫婦別姓を認める国はもちろん、同姓にしたい人は同姓に、元の名字を使いたい人は別姓にできる「選択的夫婦別姓」を制度として持つ国もあります。別姓か同姓かだけではなく、結合姓も選べるなど、選択肢が多い国もたくさんあります。
夫婦同姓、つまりどちらかに改姓を強制する日本は世界の中でも唯一で、世界からも「女性差別撤廃条約」に違反していると、度々勧告を受けているくらいです。世界各国で夫婦別姓が推し進められてきた理由は、同姓を強制することで女性が自分の姓を失うことになり、女性差別につながるという国際的な判断なのです。
小野さんが事実婚を選んだ理由は前述のように、現行の日本の民法では夫婦別姓を選べないから。「もし他の国のように、夫婦別姓を選択できると法律で認められていたら、法律婚をしていました」と言います。

素敵な事実婚カップルとの出会い

静岡県富士市出身の小野さん。旧家の生まれで2人姉妹の長女だったことから、「婿養子を取るように」と期待されて育ってきました。そのため、自分の家は自分で守らなければ、という意識も強く持っていました。
さらに、夫が長男で家業を継いでいることもあり、小野家の婿養子となって姓を変えてもらうのには抵抗がありました。最終的に、「それぞれ自分の姓を名乗り続けるほうがいい」という結論に到るまでに、もうひとつきっかけがあったとふりかえります。

「20代のとき、立教大学のジェンダーフォーラム事務局に勤めていました。そこで、夫婦別姓を選んでいる事実婚カップルが4組いたんです。自立したふたりが一緒になっている、という印象でした。皆さんとても仲良しで、家事も子育てもできる方ができるときにやっている。

仕事帰りに夜のデートを楽しみ、子どもの進学や不動産に関する建設的なディベートをしている。そこには主従関係はなくて、対等なパートナーであること、どちらも経済的に自立していて素敵な関係だなと感じたことも、事実婚への後押しになったと思います」

事実婚ならではの苦労話はない

自身や夫の置かれた環境のこと、周囲に憧れの念を抱くような事実婚カップルが多くいたこと……そういった状況から事実婚を選び、両家にもすんなりと受け入れられ、良好な関係を築いている小野さん。
事実婚であることを公表し、その生活を13年に渡って楽しく続けていることから、インタビューを受ける機会も多くありました。そのなかで必ず聞かれることがあるといいます。

「『夫婦別姓をしていて不都合なことはありますか?』は頻出の質問ですね。こんな大変なことがあって……というネガティブな答えを期待されているのだと思いますが、不都合なことも何の問題もないため、話が広がらないんです(笑)。

子どもを持っても、それは変わりません。普段、保育園や学校などで、親の姓を聞かれることもましてや、戸籍を聞かれるシーンもないので。『○○ちゃんのお母さん』など、子どもの名前+お母さん、ママなどと呼ばれることが多いですよね」

小野さんの家族には、戸籍が異なる世帯主がふたりいて、娘さんは小野さんの姓を名乗っています。夫は小野さんが妊娠中だったときに胎児認知(※)をしているため、夫の籍にも娘さんたちの名前が記載されています。

※ 婚姻していない父母のあいだに、これから生まれてくる子どもを父の意思で認知するときに出すことができる。

夫婦別姓は離婚しやすい、は決めつけ

「夫婦別姓にすると何かと大変なことが多そう」「夫婦別姓にすると、家族の絆が希薄になり、離婚しやすくなりそう」といった言葉を聞いたり、目にしたりすることがあります。
しかし、小野さんをはじめ、vol.2の野々上愛さん、vol.3の山浦雅香さんなど、3人の女性たちにインタビューしてみて、それは勝手な決めつけではないかと感じてなりません。
小野さんは、「夫婦別姓であることは、配偶者として夫に属するのではなく、ひとりの自立した人として、日々いろいろな物事と対峙したさい、判断をスムーズにできることが多い」と話していました。
また、事実婚を長く続けていることからも、その選択が小野さんご夫婦にとって最適なかたちだったことが見てとれます。

表になかなか出てこない、見えていないだけで、夫婦円満な事実婚カップルはたくさん存在している――。世の中にそういった認知が広まることで、夫婦別姓にまつわる動きが少しずつ進んでいくことを期待したいです。
筆者自身、結婚したら必ず夫婦別姓、という状態を望んでいるわけではありません。夫婦同姓でも、夫婦別姓でも、どちらでもいい。
一番は、カップル一組一組にとって、最も心地よくて、自然なかたちを選べることではないでしょうか。そんな「選択的夫婦別姓」が導入されると、日本人のパートナーシップのあり方は、格段に自由になり、それぞれの違いを認め、肯定する人が増えるのではないかと思います。

▽ 小野美智代さん
妊産婦と女性を守るNGOジョイセフに勤務。女性の健幸美支援HiPs代表。静岡県三島市から都内への新幹線通勤・事実婚(別姓)歴13年。10歳と3歳のお子さんと同い年の夫の4人家族。

▽ 前回の記事はコチラ
▽ twitter: 小野美智代(@micchi_JOICFP)、ブログ: ママになっても新幹線通勤続行中!ジョイセフ ミッチのブログ

2018.07.28

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記事を書いたのはこの人

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Written by 池田 園子(いけだ そのこ)

岡山県出身。中央大学法学部卒業後、楽天、リアルワールドを経てフリー編集者/ライターに。関心のあるテーマは女性の生き方や働き方、性、日本の家族制度など。結婚・離婚を一度経験。11月14日に『はたらく人の結婚しない生き方』を発売。 写真撮影ご協力:青山エリュシオンハウス 撮影者:福谷 真理子