【自由な結婚】vol.3「事実婚という生き方――働くアラサー女性の場合」

結婚は自由だし、結婚をしない生き方もある。法律婚にとらわれない、いろいろな結婚のスタイルがあっていい――。本連載【自由な結婚】では、そんなメッセージを伝えるコンテンツをお届けしていきます。vol.3では、事実婚を実践する働く一児の母、山浦雅香さんにお話を伺いました。


自分の氏名を名乗るため、離婚した

30代前半の山浦さんは現在、住民票上は「妻(未届)」として、25歳年上の夫と6歳の息子との3人暮らし。夫は事実婚のパートナーで、子どもの親権は夫が持ち、夫の姓を名乗っています。
新卒で入社した会社で出会った夫と交際・入籍を経て、結婚生活を送っていたものの、2015年3月に離婚届を提出。背景には、山浦さんの「入籍する前の自分の姓を名乗りたい」という強い希望がありました。
そのため、「事実婚という形態を選んで、夫婦別姓にすること」を実現したのです。

「事実婚は私にとって、生きているあいだ中、自分のもともとの名前を名乗るための唯一の手段でした。それは職場で旧姓を使用するのとはまったく違う感覚です」(山浦さん)

夫婦同姓を強制する日本。世界的に見ると…

確かに、職場で旧姓を使っている女性は少なくありません。筆者自身も結婚していた当時、仕事では旧姓(池田)を使っていました。ただ、いくら日常生活で旧姓を名乗ったところで、旧姓では免許証やパスポート、健康保険証、クレジットカードなどは作れません。
戸籍上の姓(夫の姓にした場合は夫の姓)でないと公的な手続きはできないのです。

「事実婚という形をとることで、法律婚と完全に同一ではなくても、パートナーとの実質的な婚姻関係を結ぶことができて、かつ自分自身の名前で生きていくことができます。
夫婦同姓を強制する日本は、世界と比べて遅れていると思います。法律婚した方のうち、96%くらいの女性が男性の姓を名乗る、という選択をしているのが日本の現実です。
私は自分が自分の氏名で生きることを通じて、日本社会に存在する男女不平等を伝えていきたいとも思っています」(山浦さん)

まだまだ事実婚選択者は少ない

都内の某区役所に離婚届を提出した際、窓口で住民票の続柄をどうするか、山浦さんは職員から問いかけられたといいます。

「『妻(未届)』とするのが事実婚の条件だと考えていたので、そのようにしてほしいと伝えたところ、『“妻(未届)”は結婚する可能性のある男女間におけるもので、離婚した男女間では使えません』と言われました。
驚きながら、『また子どもが生まれることになったら入籍します』と伝えると、上長の方への確認を経て、生計がひとつであることを別紙に書くように言われ、指示されたように書いて事なきを得ました」(山浦さん)

山浦さん自身、「事実婚を選ぶカップルはマイナー」とわかってはいたものの、自治体職員ですらここまで対応に戸惑うものだとは思っていなかったと振り返ります。

不都合に感じることは、ほとんどない

事実婚をすることで、不完全ではあるものの、夫婦別姓を遂行できる良さがあります。さらに、“外”から見ると、共同生活を送っているふたりが婚姻届を出しているかどうかだけでなく、それぞれ姓が違うかどうかなんてわからないもの。
事実婚での生活が、周囲との人間関係において法律婚と異なる作用を及ぼすのかというと、まったくそんなことはありません。一方、不都合に感じていることはあったのか、率直に答えていただきました。

「法律婚が税制面や相続面で守られているのに対し、事実婚はそうではないこと。住む場所の自由がないことも不都合な点のひとつですね。事実婚をするには、住民票が同じところになければなりません。
産後、保育園になかなか入れなくて、息子とふたりで一時的に別宅で生活していました。当時は法律婚だったので、自分と息子だけの転居に不都合はなかったものの、現在のように事実婚の状態だと、“他人”になってしまうんですよね」(山浦さん)

子どもとの名字が違う点で、わずらわしいことはあるのか聞くと、ほとんどないとのこと。実際、保育園で山浦さんの姓が呼ばれる機会はほぼなく、たいていは「○○くんのママ」「○○くんのお母さん」で済むからです。

メジャー、マイナーという概念がなくなる時代

「法律婚の方が絆が強い」「事実婚はふたりを縛るものがないからこそ、離婚しやすくなる」なんて意見も中にはありますが、それも一概には言えないのではないかと、山浦さんの話を聞いていて感じました。

「私は今、法律婚をしていないわけですが、息子もいますし、夫との関係を解消するのには心理的に大きなハードルを感じています」(山浦さん)

法律婚を選択する人、事実婚を選択する人。夫婦同姓を選択する人、夫婦別姓を選択する人――。もう少し社会で多様化が進んで、選択肢が増えていって、それぞれが自分の望むスタイルに合う選択が叶うようになれば「メジャー(多数派)」「マイナー(少数派)」なんていう概念がなくなり、この世界はもっと生きやすいものになる。そんな未来を望みます。

▽ 山浦雅香さん
1985年、茨城県生まれ。会社員を経て2018年3月からフリーランスに。一児の母。「夫婦別姓にしたくて離婚届を出した。」の運営者。
中国人との交流を通じて得た中国情報の発信と、固定観念にしばられない生き方の実践がライフワーク。

▽ 前回の記事はコチラ
となりの中国人
まっかちん生活

2018.07.03

  • Twitterでシェア
  • f Facebookでシェア
  • B!はてなブックマーク

記事を書いたのはこの人

Avatar photo

Written by 池田 園子(いけだ そのこ)

岡山県出身。中央大学法学部卒業後、楽天、リアルワールドを経てフリー編集者/ライターに。関心のあるテーマは女性の生き方や働き方、性、日本の家族制度など。結婚・離婚を一度経験。11月14日に『はたらく人の結婚しない生き方』を発売。 写真撮影ご協力:青山エリュシオンハウス 撮影者:福谷 真理子