sex研究部Vol.1 『セックスペディア』著者・三浦ゆえさん

周りの人にはなんとなく聞きづらい、女性の性やセックスに関するテーマ。大事な話ですがネットで調べて済ませていませんか? 専門家の話からセックスをひもとく企画第1弾は『セックスペディア』著者の三浦ゆえさん。ロングセラー本『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』シリーズにも関わった三浦さんに、現代女性の性の悩みから解決法まで伺ってきました。


女性の選択肢は広がっている

今年3月に出版された『セックスペディアー平成女子性欲事典ー』。そのキャッチーなネーミングでSNSを中心に話題を集めていました。著者はフリーエディター・ライターの三浦ゆえさん。近年元気な女性が増えたこと、自らの性を軽やかに楽しむ女性が目立つようになったことが、出版のきっかけになったと振り返ります。これには『エロメン』と呼ばれる男優が出演する女性プロデューサーの手による女性向けAV、女性作家が女性のために描くエロティックな小説、女性が女性のために開発するセルフプレジャー(マスターベーション)を楽しめるアイテムなど、女性が心から楽しめるエロコンテンツが増えている背景がありました。
「『セックスペディア』では最近の女性たちを元気にしているキーワードを多数紹介しています。一部の女性は知っていて、一部の女性はまだ知らないものもあるでしょう。今は女性にとっての選択肢が広がり、自由に選び取ることができる時代です。自分の好きなものを選べるし、むしろ選んでいいんだと伝えたいですね」

セックスに関する教育は必要

今でこそ女性の性や身体、生殖医療などの取材を数多く行う三浦さんですが、最初に入社したのはそんなテーマとは関係ない語学教育コンテンツを扱う会社でした。その後『Sex and the City』出演女優と元夫が書いたセックスハウツー本『サティスファクション―究極の愛の芸術』の日本語版を手がける会社など、いくつかの出版社を経て2009年に独立を果たします。
「性にまつわる本の製作現場を目の当たりにしたのはそのときが初めてでした。会社員時代は本を作るプロセスを学んできた時間だったと思います」
フリーランスになって間もない頃、当時はまだ無名だった宋美玄医師と出会ったのがひとつのターニングポイントになりました。

「宋先生とは偶然引き合わされたという感じです。セックスに関する本を作ることになり、1年ほどかけて『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』を作りました。女性医師によるセックスハウツー本がなかった頃です。資料として何冊か本を読んでいると、信ぴょう性があるのかどうか定かではないひどいものが多かったのを覚えています」

1000人の女性を抱いた男性、AV女優……医学的裏付けに基づかないハウツー本はいくらか出ていましたが、三浦さんは「(そのセックスが)視覚的に楽しめるものかどうか意識されすぎていたり、男性目線が入りすぎていたりして好きではなかった」と話します。

「女性の身体のことを知り尽くしているのは、やっぱり女性の産婦人科医だと思うんです。読者は飛び道具を求めているわけではありません。身体の構造をはじめとする、オーソドックスな情報こそ求められています。たとえば『濡れにくい=テクニックが足りない』ではなく、『濡れにくいときもあるのか』と理解できるような本にしたかったのです」

三浦さんが構成・編集協力として関わった第一弾、第二弾ともにベストセラーとなり、幅広い層にリーチしたように見えたものの、若者への性教育のズレを感じていると三浦さんは話します。
「たとえば未だに小学校での初潮教育は、女子児童だけを集めて行われます。それもあって大人になっても、女性の生理の仕組みを正しく理解していない男性は少なくありません。また女性に対して生理に関する教育はあっても、男女に対してセックスに関する教育は行われていないことは大きな問題。初潮教育云々以前に年齢に則した性教育をしていくことが大事です」

その後は『一度も愛してくれなかった母へ、一度も愛せなかった男たちへ』(遠野なぎこ著)、『超整形美人』(ヴァニラ著)など、話題の本を構成・編集協力としてサポートしてきた三浦さん。いずれも女性の性や生き方をリアルに綴った内容になっています。2013年にブレイクしたエロメンの代表格・一徹さんによる著書『いってちゅ。Ittetsu photo book』、『恋に効くSEXセラピー』も三浦さんが構成・編集担当に。

「一徹さんをはじめとするエロメンたちにじわじわとコアなファンが付き始めた頃、一徹さんの本を出さないかと各所に提案して回ったのですが、当時は企画が通らなかったのを覚えています。2013年になって一徹さんのメディア露出が増えてからは、ファンの行動力が後押しした影響もあって、人気が爆発し書籍化もトントン拍子に進んだんです」

一徹さんをはじめとするエロメンたちのリアルな人気を見て、女性たちが自らの意思でエロティックなコンテンツを選び、楽しんでいると実感した三浦さん。このことも後の『セックスペディア』出版に強くリンクしていました。

性のアンテナを主体的に伸ばしてみる

女性やカップルを数多く取材する中で、コミュニケーションに関わる問題は、相変わらず悩みとしてたくさん挙がってくると三浦さん。
「パートナーとセックスレスになってしまったり、彼がアブノーマルなことを求めてきても断れなかったり、嫌な行為にノーと伝えられなかったり……といったことはよく聞きます。たとえば、一方が『セックスなんてなくてもいい』と感じていても、もう一方は『セックスしたい』と不満を感じているなら、片方が嫌々付き合うことになってしまいます。『私はしたくないから外で(セックス)してきて』とパートナーに伝えたとしても、決してよい解決には到らないと思います。性への意識がふたりの間ですれ違うことを私は“性欲格差”と呼んでいますが、一方の性的な感覚がゼロになったりすると、お互いに理解し合うことは難しくなるでしょう。このほかにもセックスカウンセリングを行う医師やカウンセラーからよく聞くのは、自身の性的嗜好をわかっていない人が多いという話です」

自分はどこを気持ちいいと感じるのか、どんなものに興奮するのかなど、自分の性のスイッチがオンになるポイントを知らないと、パートナーとのセックス中に「~してほしい」「~が感じる」などと伝えることも難しくなります。その結果、セックスを楽しいと感じなくなる可能性も……。

「女性向けの映像でも男性向けの映像でも、本でも何でも構いません。アンテナを立てて、性の意識やテンションを高める活動をしてみてください。わざわざお店へ行かなくても、スマホで人の目を気にせずコンテンツを手に取れる時代。Amazonでもそういったコンテンツを買えるようになり、女性にとっての障壁は低くなっています」

三浦さんは『セックスペディア』でも触れられている「セルフプレジャー」を勧めます。
「女性もセルフプレジャーを暮らしに取り入れることで、性の楽しみを心身に覚え込ませることができますし、性的な感受性の引き出しが増えていくメリットもあります。そうしているうちに好奇心が強くなり、行動にも結びついていくはず。性に対して受け身になる必要はありません。女性が純粋に楽しめるアイテムやコンテンツなどが増えてきたので、自ら主体的に選んでみてほしいです。セルフプレジャーは自分のためにすることですから」

三浦ゆえさんの推し本

『“48歳、彼氏ナシ” 私でも嫁に行けた! オトナ婚をつかみとる50の法則』
恋活・婚活をするなら「独身男性はもちろん独身以外の男性とも会って、まずは『出会いの母数』を広げよう」など、独身アラサー・アラフォー女性に向けたアドバイスがたくさん書かれてある実践的な本。著者の方に取材したところ「『傷つくから何も行動を起こせない』という人も多いですが、何もしない自分にも『何も起こらなかったなぁ』と傷ついていくものなんです」とおっしゃっていました。でも傷つかずに恋愛をするなんてムリ。必要以上に傷つかない術、傷ついたときのリカバリー法を身につけるのが女性として賢い生き方だとわかる1冊です。

▽ 三浦ゆえさん
フリーエディター・ライター。お茶の水女子大学卒業後、複数の出版社に勤務し、2009年にフリーに転身。宋美玄著『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』シリーズの編集協力はじめ、女性の性と生をテーマに編集、執筆活動をする。著書に『セックスペディアー平成女子性欲事典ー』(文藝春秋)

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2014.07.10

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記事を書いたのはこの人

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Written by 池田 園子(いけだ そのこ)

岡山県出身。中央大学法学部卒業後、楽天、リアルワールドを経てフリー編集者/ライターに。関心のあるテーマは女性の生き方や働き方、性、日本の家族制度など。結婚・離婚を一度経験。11月14日に『はたらく人の結婚しない生き方』を発売。 写真撮影ご協力:青山エリュシオンハウス 撮影者:福谷 真理子