「共感するより、溺れてほしい」小野美由紀さんが小説に込める思い【園子の部屋#11】
編集者/ライターの池田園子が、そのときどきで気になる人、話を聞きたい人に会いにいく連載企画「園子の部屋」。第11回目は文筆家の小野美由紀さん(以下、敬称略)。
読む者の身をヒリヒリさせるように迫りくるーー初めて小野さんの文章にふれたとき、痛みのような刺激を受けたのを、今でも鮮明に覚えています。
ただ巧いだけではなく、言語化するのが難しいことを自分だけの言葉で表現し、伝えきろうとするエネルギーを、小野さんのブログやデビュー作『傷口から人生』から感じ取っていました。
書きたいことがあふれすぎて困る
池田:1年前、小説『メゾン刻の湯』(ポプラ社)が出ましたね。小野さんの著作はデビュー作から『人生に疲れたらスペイン巡礼』(光文社)と読んでいますが、いろいろなテーマに挑戦してきて、ついに小説発表か! とワクワクしたものです。
小野さん(以下、小野):小説って、書けると思ってなかったんです。自分にとって果てしなく神聖で、簡単に手を出してはいけないジャンルだとも思ってて。
池田:書き始めてみて、印象は変わりました?
小野:書けるようになるまで時間はかかったけど、自分にも書けるんだとわかってからは、面白くてたまらなくなりました。いろいろな書き方を試してみたいし、書きたいことがあふれすぎてると感じるくらい。
池田:『メゾン刻の湯』は現代を舞台にしていて、登場人物に自分を投影しながら読める作品でした。今後はどういう作品を書きたいですか?
次に挑戦したいのはファンタジー
小野:自分の想像力の広がる先がファンタジーなんですよね。非現実的な作品を書きたいです。3年くらい前から書いているものがあって、ある媒体で近々掲載される予定です。
池田:告知を楽しみにしています。先日ツイッターで「ウェブ媒体からも小説の依頼をいただくようになった」と書かれていました。ウェブでさくっと読める小説と1冊の長編って、作り方はそれぞれまったく違うんでしょうか。
小野:あまり違いはないですね。決められた文字数の中で、その世界を書き切るだけなので。
池田:作家には文字数を大幅に超える量を書く人と、文字数が足りなくて加えていく人とふたつのタイプがいます。小野さんはどちらに近いんでしょう。
小野:私はたくさん書いちゃうほうです。想像が広がりすぎて、書きすぎてしまうぶん、推敲するときに困ってしまって。一発書きの作家さんが羨ましいです。
エッセイ風のフィクションを書く理由
池田:睡眠課題に向き合うウェブメディア「フミナーズ」で連載を持たれてますよね。担当編集さん(カツセマサヒコさん)がツイッターで、「小野さんが原稿を2パターン出してくれた」って書いてて、私びっくりしたんです。そんな著者さん、出会ったことない! って。
小野:原稿を2本出す、というのは私、けっこうやってます。「こっちの可能性もあるな」と思うと、たくさん書いちゃうんです。それを担当編集に見て決めてもらう。選ばれなかった原稿のほうが良かったかも? っていうケースもありますが。
池田:へえ。フミナーズで8月に公開された「片恋通話」とくに好きです。創作とご自身の経験との境はどのあたりなんだろう、とドキドキしながら読んでました。
小野:ツイートしてくれてましたよね! あれ、フィクションなんですよ。
池田:そうなんだ!? コラムの上に「ナイト・エッセイ」って書いてあったから、エッセイだと思って読んじゃってました。
小野:エッセイって、ネタ尽きません?
共感するより、溺れてほしい
池田:自分の経験をベースにするとなると、ネタはなくなっていく一方ですね。
小野:ネタは尽きるし、エッセイ風に書くのに飽きてしまったんです。なんか物足りないなって。より広い世界を書いてみたくて、物語として書くようになりましたね。私にとってエッセイが「木」なら、物語は「森」なんです。
池田:「森」に入ってきた読者にどうなってほしいですか?
小野:共犯者になってくれたらいいな、って思います。
池田:共犯者?
小野:目配せし合えるような相手、って言うとわかりやすいかなあ。物語に共感するというより、その世界に耽溺してもらえたら。私自身、そういう物語のほうが好きなんです。
「子どものときの空想」に創作のヒントがある
池田:小野さんといえば、「身体を使って書くクリエイティブ・ライティング講座」というワークショップも長く続けていますよね。
小野:月1で開催していますよ。池田さんもぜひ来てください。
池田:「子どもの頃の感覚を思い出すワーク」とか、日常の自分とは無縁なTo Doがいろいろあって気になります。
小野:池田さん、幼い頃に自分がどんな空想していたか、思い出せるものあります?
池田:(しばらく考えて)いやー、なかなか出てこないです……。
小野:ワークショップでは、過去の空想を再現するワークをします。みんな、はじめは「ない」って言いますが、けっこう出てくるんですよ。空想に、その人自身の好きなものや、現在の作風の片鱗があるんですね。
池田:面白そう!
小野:私も子どもの頃にいろいろな空想をしていました。それを思い出して、大人になった今の自分が持っている経験と文章力で形にしています。
池田:興味深いです。今年はワークショップ、参加させてください。今日はありがとうございました!
(編集後記)小野さんは悩みを人に相談しないといいます。「人に相談するから、人は不幸になる。そもそも自分の中に答えがあるから、自分で解決するしかない」が持論です。 自力で解決する手段が、小野さんにとっては「小説を書く」なのだとか。それが読者を「共犯者」化する作品となるのはすごいことです。これからもひとりの読者として、作品を待っています。
▽ ゲスト/小野美由紀さん
文筆家。1985年生まれ。慶應大学文学部仏文学専攻卒業。著書に『ひかりのりゅう』(絵本塾出版)、『傷口から人生』(幻冬舎)、『人生に疲れたらスペイン巡礼 飲み・食べ・歩く800キロの旅』(光文社)、『メゾン刻の湯』(ポプラ社)がある。月1回、創作文章ワークショップ「身体を使って書くクリエイティブ・ライティング講座」を主催しており、次回は3月23日に大阪にて開催。詳しくはこちら
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