【自由な結婚】vol.2「事実婚という生き方――地方議員×学者夫婦の場合」
結婚は自由だし、結婚をしない生き方もある。法律婚にとらわれない、いろいろな結婚のスタイルがあっていい――。本連載【自由な結婚】では、そんなメッセージを伝えるコンテンツをお届けしていきます。vol.2では「事実婚“のようなもの”」を実践する野々上愛さんにお話を伺いました。
夫婦同姓はデメリットが多かった
2009年に第1子、2012年に第2子を出産した野々上さんは、大阪府高槻市議会議員として10年以上、地元で活動を続けています。妊娠を機にパートナーと話し合った結果、事実婚のようなものをしようと話がまとまりました。
「未だに実現されない夫婦別姓はもちろん、婚外子の相続や同性婚の問題も考えると、戸籍制度や現状の結婚制度には反対の立場です。だから法律婚をせずに子育てをしようと決めました」(野々上さん)
法律婚をして姓を変えることで、社会的にも不都合だなと感じることも。たとえば、野々上さんの場合、長年「政治家・野々上愛」として地域に密着した働き方をしてきました。結婚してパートナーの姓に変えることで、有権者に認知されづらくなることがデメリットとして考えられます。
一方、パートナーは学者。論文や業績などはデータベース上に蓄積され、キャリアも長く、現在の氏名は国内外で浸透しています。そのため、姓を変えるのはデメリットが多いといいます。
女性が好きなパートナーシップを選ぶ
「妊娠・出産の影響を大きく受けるのは女性です。だからこそ、パートナーシップの選択肢は結婚以外にもいろいろあって、女性が自ら選べるんだ、悩まなくてもいいんだって知ってほしいと思います。
学生時代、女性の先輩から『妊娠したときに“○○くん助けて”と言うんじゃなく、“あなたの子どもができた。認知させてあげてもいいよ”と言えるくらいの強さを持って』と言われたのが印象に残っています。
社会システムの問題はありますが、女性が主体的に、強く、しなやかに、パートナーシップを選べる状態を作っていきたいですね」(野々上さん)
「稲村和美市長方式」の秘密
事実婚のようなものを実践しようと決めた野々上さんたちは、友人の兵庫県尼崎市市長、稲村和美さんが実践している「子どもの籍を移動し、母が子どもの親権を持ち、子どもを通してパートナーと自身の権利をクロスさせる」方法をとることにしました。
「出産1か月前にパートナーが胎児認知をし、その事実をもって、子どもの籍の移動・変更の申し立てを家庭裁判所で行いました(※)。子どもはパートナーの姓を名乗り、争わない限り親権は母である私にある状態を作りました。
こうしておくと、万一私が死んでしまった場合、子どもの扶養者ということで、財産は間接的にパートナーのもとへ入ることになります。この手続きをする上で、事前の胎児認知はマストではありませんが、事前に胎児認知がなされていると、父親との親子関係や養育の意思が裁判所に伝わりやすく、手続きがスムーズに進みやすいんです」(野々上さん)
※ 民法第791条では、子どもが父または母と違う姓を名乗る際には、子どもが家庭裁判所の許可を得て戸籍の届出をすることで、父または母の姓を名乗れるとされています。
事実婚に不都合を感じることはない
4人家族のうち、野々上さんだけが野々上姓で、子どもふたりとパートナーは同じ姓を名乗っています。このことに不都合を感じたことはと尋ねると、「とくにはないですね」。
「小1と小3の子どもたちからは、うちはどうしてお父さんとお母さんの名字が違うのかと聞かれたことがあります。そのときは私たち親ふたりの考えを説明しました。
今、学校のクラスにひとり以上は、外国籍のお子さんやシングルマザー、ファーザーの親を持つお子さんもいます。多様性のある環境にいるからこそ、子どもたちは柔軟に受容しているような気がします」(野々上さん)
私たちは選択肢をたくさん持っている
野々上さんは「大学で開講する地方自治の授業や女子学生の就職セミナーなどに呼ばれた際、女性のライフスタイルにはたくさんの選択肢があると伝えてきた。今後も伝えていきたい」と話します。
「社会保障や年金、保険など、家族に対して特典があるのが日本の制度です。これを北欧のシングル単位の社会保障に近づけていきたい。一人ひとりが自立した状態で、パートナーシップを組めたら、経済的・社会保障的・文化的に、女性の権利を高めていくことができますから」(野々上さん)
結婚にとらわれないパートナーシップを実践する野々上さん。その姿は自分に合った選択肢の見つけ方を私たちに示してくれることでしょう。
▽ 野々上 愛(ののうえ・あい)さん
1977年・大阪府高槻市生まれ。同市議会議員。緑の党グリーンズジャパンメンバー。パートナーとは「事実婚の“ようなもの”」を実践中。二児の母。
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