sex研究部Vol.11 作家・フリーライター 亀山早苗さん
周りの人にはなんとなく聞きづらい、女性の性やセックスに関するテーマ。大事な話ですがネットで調べて済ませていませんか? 専門家の話からセックスをひもとく連載の第11回に登場していただくのは、長年多くの男女に恋愛・結婚、不倫、性・セックスなどのテーマで取材を重ねてきた作家・フリーライターの亀山早苗さん。今回はセックスレスにまつわる著書もある亀山さんから、セックスレスやそれと密接に絡む不倫のリアルをお聞きしました。
2000年代まで話題にならなかったセックスレス
今でこそ朝の情報番組で特集が組まれるほど認知され、問題視されるようになったセックスレスですが、言葉や概念自体は今から24年前の1991年に、精神科医の阿部輝夫さんが提唱し始めたもの。
当時、担当編集者がセックスレスという言葉を知ったのを機に、私もすぐに阿部さんを取材しました。「夫婦でセックスをしないことによって弊害が起こり得る」と精神科医が言い始めたことは衝撃的だったんです。
『anan』の「セックスで、きれいになる」特集(1989年)以降、セックス特集が盛んに組まれるようになり、奥さま向け雑誌でも夫婦間のセックス特集を展開していました。でも、セックスレス特集はまだなくて。専門家にしか注目されていなかったんでしょう。
セックスレスは10年近く埋もれていて、2000年代になってから広まった印象があります。日本家族計画協会 理事長の北村邦夫さんが、「男女の生活と意識に関する調査」でセックスレスの調査を始めたのが十数年前。その頃から徐々に広がり始めたのではないでしょうか。
それまでは「夫婦なんだからセックスなんてどうでもいいじゃない?」「夫婦のセックスなんて取り上げる必要はない」といった風潮がありました。だからこそ普通のセックス特集とは違い、表に出てこなかったのかもしれません。
問題が表面化してなかったために、当時「(セックスレスに悩むなんて)私がおかしいのでは?」とモヤモヤしていた女性はたくさんいました。取材をしていて「夫から『お前はそんなこと(セックスのこと)しか考えていないのか』と非難された」と聞いたこともあります。苦しんでいるのに、誰にも相談できずにいた人が多かった時代です。
婚外恋愛に走る理由が変わってきた
とくに90年代初頭は日経新聞に『失楽園』が連載され、不倫ブームを巻き起こしていました。それも作用して、夫婦間のセックスレス問題がかき消されたようにも感じます。それまでも不倫といえば、既婚男性×独身女性の組み合わせが主流でしたが、バブルがはじけきって5~6年経った頃から既婚同士が増えました。渡辺淳一さんはやはり先見の明を持つ方だなと思ったものです。
なぜ既婚同士の不倫が増えたのかと考えると、私自身は普通の主婦が携帯電話を持つようになったことが一番大きいと思います。不倫をするために携帯を持ったわけではないでしょうが、ツールを手にしたことにより、主婦の行動範囲は確実に広がりました。
最近はスマホを持つ主婦が増え、取材をしているとFacebookで元恋人や元同級生と再会するケースが圧倒的に多いです。出会い系サイトを使うのは怖いけれど、身元がわかる相手となら安心感があるというのが大きいのでしょう。
不倫に関する著書もたくさん書いてきたので、多くの女性に取材をしてきましたが、「家庭で性的に満たされていないから不倫に走るの?」と聞くと、昔は断固として否定する女性ばかりでした。本音は別かもしれませんが「外に好きな人ができたから」というのが建前としてあったんです。
しかし最近は、不倫をする理由を「彼とのセックスがいいから」とあっけらかんと答える女性が増えました。これをいい傾向と言うのは賛否両論あるでしょうが、彼女たちにとっては「セックス込みの恋愛」なのでしょう。
「恋したから結果的にセックスをしている」ではなく「彼とのセックスが楽しいから恋愛している」といった意識を持つ人も増えてきたのだと思います。
そのため何らかの事情で彼とセックスできなくなると、別れたり友だちに戻ったりする例も少なくありません。普通の主婦の方でもそう。「私って現実的でしょうか?」と聞かれることも(笑)。
5~10年で女性の意識が大きく変わった
このように女性の性・セックスへの意識が目立って変化したのは、ここ5~10年の間。ひとつ、印象的だった出来事があります。2005年に裕福な家庭の既婚女性を集めて、夫婦間の悩みを医師に相談する企画を座談会形式で行ったところ、途中から話のテーマが思いもよらない方向へ進んでいったのは今でも覚えているほど。
ある女性がボソッと「夫とはセックスしていない」と打ち明けたのを引き金に、セックスレス自慢大会が始まったんです。「もうすぐクラス会があって……。同級生に誘われたら私、断れない。ホテルに行くと思う」と驚愕発言する女性もいました。
そこにいたのは「夫とセックスしたいのにしてもらえない」ではなく、「夫とセックスはしなくてもいい」と言う妻たちでした。私が一番驚いたのは「仲はいいけれどクラスメートやきょうだいみたいになったから、もうセックスなんてできない」と考える女性が多かったこと。これまで「家族とは(セックス)できない」という発言は、男性からしか聞いたことがなかったんです。
2000年代前半以前に、女性に「夫とはできないことは?」と聞くと「恋」といったお花畑的な答えが返ってきていました。一方で、男性に「妻とはできないことは?」と聞くと「刺激的なセックス」といった回答。今はこの答えがすっかり男女逆転しています。
男性が精神的に弱くなっているのもありますし、女性の意識、ひいては妻の意識も変わり、女性自体が強くなっていると感じます。
モラハラやDVの問題も取り沙汰されるようになりましたが、家庭内で無用な争いを起こしたくないと考える男性も少なくありません。男性も二極化しています。自著『「夫とはできない」こと』の中でも紹介したように、妻の浮気や不倫に敏感に気づく男性もいます。それでも「浮気してるんだろう?」と言える男性はあまりいなかった。
男性側には真実を知るのが怖かったり、妻が逆ギレしたり、「別れるわ」「離婚しましょう」と宣告されたり……といった変化を恐れる人も多いんです。とくに熟年離婚を避けたい男性は少なくないので、「(不倫を)知らないふり」を貫き通す人も相当数います。
「家庭=会社」と考えてみるとレス解決策が見えてくる
夫婦は一番近い他人といえる存在。実はどこまでいっても他人なのかな、と最近考えるようになりました。そもそも夫婦とは、お互いのいろいろなところが目についたとしても、「上手くやっていかないといけない関係」なんです。
家庭は会社のようなもの、と考えるとわかりやすい。「会社」を運営するために集ったメンバーが夫婦。「事業内容」は子どもをふたりで育て上げて、一人前にした状態で社会に出すこと(子どもを持つ夫婦の場合)。何もスキルがない新入社員を立派な社員に成長させるわけです。また、最初は賃貸に住んでいても、後に「自社ビル」(マイホーム)を購入するなど、会計面でも上手く進めていかないといけません。
そのときに大切なのは理性であって、感情ではないわけです。もちろん親子間では感情のやりとりが大事ですが、夫婦関係は感情的にならないほうがスムーズにいくのです。
昔はお見合い結婚が主流でしたが、昨今は恋愛結婚がメジャー化しています。どこかで皆「結婚って恋愛とは全然違うんだな」と気づくもの。
セックスの不満を露わにしたり、性癖をカミングアウトしたり、セックスで具体的なことを要求したり……「生々しいこと」を相手に告げると、会社として存続しづらくなる不安が生じます。一番理想的なのは「確かにここは『会社』かもしれない。でも、族の関係でもありながら、男女の関係でもあり続けようね」と、ふたりの間で話し合えていて、お互いが納得できていることだと思います。とはいえ、なかなかそれを徹底するのは難しく、日本では子ども中心になりがちです。未だに「ベビーシッターに見てもらうなんて親失格だ」と言う人もいますし。
結婚後のセックスレスを解消するには「週に一度程度は夫婦でデートしましょう」など、政府や会社が推奨して社会そのものを変えていかない限り難しいのではとも思います。「習慣」がかなり大事です。
私の知人に30代の仲よし夫婦がいて、結婚前から「ずっと恋人のような関係もキープしようね」とふたりで話していました。子どもが産まれてから出かけられない時期もあったようですが、近くに住む親族にサポートしてもらい、週一回2時間デートに出かけることを習慣化していました。もちろん今でも週一デートは生活の一部。彼ら自身「ものすごく努力をしない限りムリ」と話しますが、男女と家族の2つの役割を保てています。そういうカップルもごく稀ですがいます。
以前以前『セックスレス そのとき女は……』という本を書いたとき、最後の最後まで苦しむ女性はいないんだなと気づきました。皆どこかで何かしらの打開策を見つけています。解決したいと願って行動に移す限り、解決策は手に入るはずです。
▽ 亀山早苗さん
1960年東京生まれ。明治大学文学部卒業後、フリーライターに。女性の生き方を中心に恋愛・結婚、性・セックスの問題を男女に取材し、分析したノンフィクション作品が人気。『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『「妻とはできない」こと』『「夫とはできない」こと』『男と女…セックスをめぐる五つの心理』など著書多数。