sex研究部Vol.9 コラムニスト 勝部元気さん

周りの人にはなんとなく聞きづらい、女性の性やセックスに関するテーマ。大事な話ですがネットで調べて済ませていませんか? 専門家の話からセックスをひもとく連載の第9回に登場していただくのは、ジェンダー論やコミュニケーション論、現代社会論などを専門とする社会派コラムニストの勝部元気さん。自身が運営するブログ「勝部元気のラブフェミ論」では、男性でありながら子宮頸がん予防ワクチンを打った記事が反響を呼び、現在さまざまなメディアで、恋愛や結婚、性に関するコラムを展開しています。勝部さんから悩める女性たちへアドバイスをいただきました。

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「好き」だけでは結婚相手を選べない

私は生物学的には男性ですが、小学生の頃から「男らしさ」を押しつけられるのが苦手でした。「男の子らしくふるまいなさい」と言われるのも、髪の毛を短く切られるのも嫌でしたね。筋肉質な体型に憧れるほかの男子とは違い、スラッとした女子を見て「あんなふうに細くなりたい」と願っていました。ウエストにひもを巻いて細くなろうとしていたことも(笑)。今になって振り返ると、こういった子ども時代の思いが、ジェンダー論を掘り下げるベースになったのだと思います。

具体的な問題意識を持ち始めたのは20代前半の頃です。きっかけとなる出来事はふたつありました。まず1つめは、女性は純粋な「好き」という気持ちだけで、生涯をともにするパートナーを選べないと気づいたこと。大学時代にお付き合いしていた年上の女性に「就職はやめてもうすこし勉強したい」と伝えるとフラれてしまったんです。
彼女は早く結婚したかったみたいです。そこそこいい大学を出て、安定した会社に就職してお金を稼いで、一緒にある程度いい暮らしができる相手がよかったんでしょう。当時「愛って何だろう?」と考えましたし、女性が自分の「好き」という感情だけでパートナーを選べないのは悲しいなと感じたのを覚えています。
では、逆に「好き」という感情だけでパートナーを選べる国はどこか考えると「女性が職業を持って自立している国」なんですね。そういう国の女性はパートナーを条件ではなく、「好き」という純粋な気持ちで選べていると気づき、ジェンダー論に目覚めていきました。

女性性を肯定できない女性たち

2つめは4年ほど専業主婦のような経験をして、社会復帰の大変さに気づいたこと。新卒入社したマスコミ関連企業は、多忙すぎて体調を崩してしまい、3か月で辞めました。すぐに転職しましたが、そこも諸事情で3ヵ月ほどしかいられなかったんです。同棲していた女性からは「職運ないからもう働かなくていいよ」と言われ、24~27歳くらいまでの3年ほど「ヒモ」に近い生活を送っていました。その間に働いた経験はほぼなく、彼女の仕事を手伝ったり、家事をしたり、ときどき塾講師のアルバイトをしたり、というくらいです。

彼女と別れることになって仕事を探し始めましたが、社会復帰には相当苦労しました。職務経歴はほとんどなく、第二新卒でもないという要素は痛手になりましたね。
それでもなんとか一般企業でアルバイトから始め、運よく社員登用され、役職を任され……とステップアップできて、昨年夏前まで3年ほど働いていました。この経験から、3~4年のブランクがあるだけで、社会復帰することの大変さを感じましたし、専業主婦に共感をおぼえました。私は大学生のときからいろいろな資格を取っていたので、まだマシだったのかもしれませんが、それがなければもっと苦労しただろうなと痛感したんです。それから女性の自立の問題にのめり込んでいきました。

20代後半に入ってからは、もうひとつ変化がありました。同棲を解消することになった相手から「あなたはもっと(恋愛とセックスの)経験を積んだほうがいい。そうすれば見えてくる世界は変わってくるから」とアドバイスされたんです。その後さまざまな経験をするうちに、女性が抱える心理的・家庭的な問題がたくさん見えてくるようになりました。承認欲求やアダルトチルドレン、母娘問題などが気になるようになったんです。母親自身が承認されていないと子育てそのもの、ひいては子どもの恋愛に影響してくるケースは多く見受けられます。
家に居場所がないと感じた女性は、恋愛に居場所を求めようとして、恋愛に依存し自身の価値を見つけようとするんです。女性性を肯定的に受け止められていない女性も多いです。仲が悪い夫婦、セックスレス夫婦など、決して理想的なロールモデルとは言い難い大人を見ていると、女性性に対して前向きな感情を持てなくなるのでしょう。

セックスレス予防に「好き」を再定義してみる

男女の性に関する情報を発信し続けていることもあって、セックスレスに関する相談は寄せられます。大きく2パターンあり、パートナーには期待していないと話す人、レスにならないためにはどうすればいいかと聞いてくる人がいるように思います。最初に話したように、日本では結婚のパートナーを純粋な「好き」云々ではなく、経済力の有無で選ぶケースが一般的。そういった相手は性的な情熱が少なく、残念ながらセックスレスになってしまうのも仕方がない。個々の夫婦に問題があるわけではなく、社会のシステムがそうさせているともいえます。

レス予防策を聞かれたときは「『好き』の範囲を広げてみてください」と答えています。よく「好きでないとセックスはできない」と聞きますが、それはイコール「恋愛感情を左右するホルモンで、快楽ホルモンとも呼ばれる“ドーパミン”が放出されている状態でないとセックスできない」ということですよね。長く一緒にいるとドキドキの感情は落ち着いてくるので、ドーパミンが減ってくるのは当然。セックスレスになるのも自然の帰結です。
ここでイメージしてほしいのは、欧米の仲むつまじいシニア夫婦。あたたかいイメージがありませんか? 「好き」という感情にはドキドキ感だけではなく、ああいう穏やかでやさしい感情も含まれるんです。
よく日本人は「家族になったらセックスする気がなくなる」と言いますが、その話を外国人の友人にすると「家族ってセックスするものじゃないの?」と驚かれます。日本人とは真逆の発想を持っているので面白いですよね。日本では「家族になったからセックスできない=家族はセックスしないもの」という前提が頭にあるのでしょう。こればかりは男女がお互いに意識を変えないといけないと思います。

恥じらいなんて不要。堂々とセクシーにふるまおう

セックスで必要とされがちな「恥じらい」についても考え直したいです。長く一緒に暮らしていると、恥じらいの気持ちが下降していくのはあたりまえ。それなのにセックスにおいていつまでも恥じらいを重視していると、レスになるのも当然ですよね。中には「恥じらいがなくなるとだらしなくなる」と指摘する人もいます。恥じらいの対義語は「だらしない」ではなく「堂々とセクシーにふるまえる」こと。恥じらいとは異なり、堂々としたセクシーなふるまいは、なくなるものではありません。たとえばフランス人は家族になっても、母になっても、年を重ねても、女性であることを忘れず、セクシーでいようとする思想があるからこそ、パートナーとのセックスやスキンシップをいつまでも楽しんでいるわけです。

これはもちろん、結婚で重視するものが国によって違うせいもあります。その手の調査を行うと、フランスでは性的なものが上位に挙がりますが、日本では下位にあります。社会システムの問題も密接に絡んでいて、フランスでは妻・母に対するサポートが手厚く、女性が女性でいる時間を確保しやすいという状況も関係しているのでしょう。
レスを防ぎたいなら、そういった環境を自ら作り出すことも大事です。子育てならぬ「孤育て」になってしまうと、女性が女性でいるための時間は確保できません。常日頃から仕事を分散させて、パートナーや周囲の人と協力し合える状況を作っておくことが大切です。

ふたりで作り上げる意識でセックスの質は高まる

ブログで「男女共同参画セックス」を提唱しています。たとえば、一般的には男性が払うものとされているホテル代を、女性も一部だけ払ってみることから始めてみてはと勧めています。お互いにお金を払うほうが「質」に対して高い意識を持てるようになるんです。
でも、女性がホテル代を少額とはいえ負担するなんて……と思う方は、無料でもらった商品を思い浮かべてみてください。無料だと「ひどい商品だな」と思っても「無料だから仕方ないか」と納得し、とくに文句を言うこともないはずです。一方で、お金を払って買った商品がひどいと、当然ケチをつけるはずです。有料の商品は買う側も質を意識しますし、売る側も質を高める意識を持ちます。

セックスに話を戻すと「ホテル代も全額払い、良質なセックスを提供する」という男性に運よく出会えるといいですが、それはごく稀です。「俺がお金を払っているから」との意識が強くなると、払っている側が発言権を持ってワガママを通してしまいがち。払ってもらっている側も「私はお金を払っているわけではないし」と思うと、それに対して疑問を持たなくなってしまいます。
男性にホテル代を払ってもらうセックスは極端な話、金と体をトレードしているようなもの。これはあくまでも期間限定で、永久に続くものではありません。トレードの対価(価値観や状況)は常に変動しますし、見た目そのものも変化します。

男女の関係を会社に例えて説明するとわかりやすいのですが、「業務提携」だとお互いのリソースを交換(トレード)し合う状態で、社会環境が変わるとその提携はなくなります。A社のほうがB社より安価で取引できる、となると提携先はA社に移ってしまうわけです。
理想的な関係は二社で作り上げていく「合弁会社」。ふたりでよいものを出し合って、関係性を築いていくと、深く強固な関係が長続きする可能性が高いです。ふたりが共同で作ってきたものは、他者が代わりに入っても作れないものですから。

▽ 勝部元気さん

勝部元気(本名同じ)。ジェンダー論、現代社会論、コミュニケーション論を切り口にした男女関係論が専門の社会派コラムニスト。雑誌やWebマガジンなどを活動の場としているほか、株式会社リプロエージェント代表取締役CEOおよびNPO法人ピルコン副理事長を務めるなど各種社会事業に携わっている。所持資格数は66個(2014年12月現在)。1983年東京都生まれ。早稲田大学社会科学部卒。5月には初の著書を出版予定。
▽ ブログ「勝部元気のラブフェミ論」

2015.03.02

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記事を書いたのはこの人

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Written by 池田 園子(いけだ そのこ)

岡山県出身。中央大学法学部卒業後、楽天、リアルワールドを経てフリー編集者/ライターに。関心のあるテーマは女性の生き方や働き方、性、日本の家族制度など。結婚・離婚を一度経験。11月14日に『はたらく人の結婚しない生き方』を発売。 写真撮影ご協力:青山エリュシオンハウス 撮影者:福谷 真理子