『少女よわたしはあなたのお父さんがすき』いつの時代の女性も捉える、俵万智の三十一文字(みそひともじ)5選
遠い昔、教科書で触れた『サラダ記念日』の作者の俵万智さんを、皆さん覚えていらっしゃることと思います。俵万智さんのその奔放で斬新な表現が歌壇の話題となり、近年の短歌界に新しい風を巻き起こしました。
その俵万智さんが、最近Twitterで息子さんの名言が面白いと話題を呼んでいて、再び注目されています。
約20年前に刊行された短歌集『チョコレート革命』が今の女子にも痛いくらい突き刺さる素敵な短歌が溢れていて、短歌に詳しくなくても気軽に詠めます。
俵万智さんが28~34歳までの時の短歌が集められているのですが、その中でも恋愛、特に不倫を匂わせることが詠まれた短歌が多く見られます。
『渡されし 青銅色のルームキーずっしりと手に重たき秘密』
仕事で遅くなるから、先に部屋に入っていて、と彼の泊まっているホテルの鍵を渡されたのでしょうか。
もしくは同時にホテルに入ることができないから、スペアキーを渡されたのか……。
渡されたそのルームキーに、彼と自分の許されない恋の秘密の重さを感じますね。
『議論せし二時間をキスでしめくくる卑怯者なり君も私も』
不安定な関係に男女が話し合う機会も少なくないでしょう。
「これから先どうなるの」「子どもが大きくなったら別れるよ」「大きくなったらっていつ?」「妻が働き始めたら別れる……」延々と結論の出ない重たい話題は終わらず2時間が過ぎる。それでも体が触れてキスをすれば、「まあ今はいいか」と結論を先延ばしにしてしまいます。
『焼き肉とグラタンが好きという少女よ 私はあなたのおとうさんが好き』
関係を持っている彼の子どもが無邪気に好きな食べ物を言ったのでしょう。
その子の無邪気さと同じように、私もあなたのお父さんが好き、と思う気持ちの真っすぐさが刺さります。
『妻という安易ねたまし春の日のたとえば墓参に連れ添うことの』
墓参りに堂々と連れ添える妻という存在がねたましい。
私はあなたのルーツとなるご先祖様の墓参りに行くことはできない。
私はどれだけ願っても行けないのに、妻という存在ならなんということもなく連れ添えるのですね。
『「忙しい」という語の中身を知らされず電話を待てば明けやすき夜』
忙しいと言っていた日、彼は何をしているのでしょう。
仕事で忙しいと思いたいが、家族で時を過ごしているかもしれない……。
わからないほど電話を待つ時間は長く感じ、やがて夜が明けてしまうでしょう。
普段触れることの少ない「短歌」という日本の文化。
俵万智さんの自由度の高い短歌は、斬新ですが、それを持ってますます確信に触れるものがあります。心がぎゅっと掴まれるような、身も焦がれるような、切ない恋を肌に感じます。
人肌恋しくなる冬、日本の文化である短歌から、恋愛のその切ない心に触れてみませんか。