sex研究部Vol.7 「昼顔女子」の実態を知りたい

周りの人にはなんとなく聞きづらい、女性の性やセックスに関するテーマ。セックスをひもとく企画第7弾では、これまでの総集編として「昼顔女子」の実態を探ります。14年秋ドラマ『昼顔』が大ヒットした裏で、いわゆる「昼顔妻」「昼顔妻志願者」は少なくないことが明らかになりました。番組公式サイトの掲示板には、数多くのエピソードが寄せられて話題に。でもGoogirl世代のアラサー女子の中に、果たして「昼顔女子」は存在するのでしょうか。今回はふたりの女性にインタビューを行い、彼女たちのエピソードから昼顔女子の実態を分析します。

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事例1:「セックスレス3年」が引き金に

同い年の男性と結婚して約4年になるAさん(30歳/通信)は、薄いメークに露出を抑えたおとなしめなファッションの女性。彼女を昼顔妻だと見破る男性はいないでしょう。そんなAさんは半年前まで3年間セックスレスだったと話します。

「夫は毎日23時すぎに帰宅しお疲れ気味なので平日は避けて、休日にエッチの誘いをしていたのですが」といった気遣いも虚しく「ごめん、疲れが取れなくて」「今日はそういう気分じゃなくて」と、よくあるセリフで何度も断られるうちに、深く傷ついてしまったAさん。同じ寝室、同じベッドで寝ているにも関わらず、体のふれあいがない状態が続きました。「でも、仲はいいほうだと思います。2週間に1回は遊びに行きますし、夫婦間で会話もあります。年1回くらい大喧嘩をしますが、基本的には親友のような関係です。ただ、セックスがないことだけが問題でした」。

最愛の人に女として認めてもらえない、性的に満たされない苦悩を抱え、悶々としていたとAさんは振り返ります。そんな折、忘年会の席で出会った6歳年上の男性Bさんと「男友達」として意気投合。2週間に一回くらいの頻度で食事に行くようになりました。

「とにかく話が合ったんです。一緒にいると楽しくて、毎晩何往復もLINEもしていました。夫とのLINEよりも断然楽しかったくらいです」。

ターニングポイントが訪れたのは、羽目を外して飲みすぎたある夜。都内で飲んでいたAさんは、神奈川にある自宅に帰るのが面倒になり、冗談半分でBさんに「今日泊めてよ」と伝えたのでした。Bさんは「いいよ」と即答し、ふたりでBさん宅に向かいました。その日はAさんが酔っ払いすぎていたため、ふたりの間に何もありませんでしたが、その次に会ったとき、あたりまえのようにふたりはBさん宅で関係を持ったのです。

その後、会う度にBさんのマンションでセックスするのが定番に。
「彼に特別なテクニックがあるとか、彼と付き合いたいからとか、そういう理由でしていたわけじゃないんです。本当は私、セックスがすごく好きなわけでもないので、しなくてもいいくらい。でも家におじゃまするわけだし、誘われると断れないし、まぁいいかなと思って」
と複雑な心境を覗かせるAさん。休日も「女友達とドライブに行く」などと嘘を吐いてBさんと出かけることがあったといいます。その時期、平日の外泊や休日の外出が増えるにつれ、さすがに鈍感な夫も気づき始めたらしく、ある夜、急に求められたとAさん。

「びっくりしました。でも私の変化を感じ取ったんだと思います。まぁ、さすがに出かける機会が唐突に増えたらいぶかしがりますよね」。
ある日のセックス中に夫が「俺以外の男とはしないでね」と悲しそうな目をしてつぶやいたのを機に、AさんはBさんとの関係は断ち切りました。「やっぱり夫以外の男性とのエッチは刺激的ですが、夫と3年ぶりにエッチをしてみると、彼とするのは安心感があっていいなと感じたんです。今は満たされているので、もう裏切ることはないと思います」。

でも最後に「またレスになればどうなるかわかりませんが」と補足したAさん。彼女に話を聞いたのは秋でしたが、2週間前「BさんとLINEを再開してます。会いたい気持ちも湧いていますが、抑制しています」と葛藤するメールをもらいました。今はどうなっているのでしょうか……。

事例2:夫との関係はそのままに「性欲は外で解消すればいい」

6歳年上の夫と結婚して1年になるCさん(29歳/IT)。SNSと連動した出会いアプリを使い、月1ペースで「新規」の男性と関係を重ねています。Cさんが昼顔妻に変貌した原因は、夫との性的不一致。大々的には挙げられないものの、離婚原因になり得る要素です。「夫は淡泊なタイプで、いつもひとつの体位でしかしたがらないんです。運動嫌いで体力がないからかもしれませんが。それにセックスを楽しもうとする気がなく、毎回ワンパターンでつまらない。私はいろいろ提案していますが、いつも私ばかり積極的なのも悲しいです」と話します。それでも2週間に1~2回のセックスがあったり、普段からボディタッチは多かったりと、決してレスではなかったものの、8月に初めて夫以外の男性と関係を持ちました。

「2歳上の大手不動産に勤める男性で、アプリを通じて7月に会ったんです。“セルフケア”の話をする私に興味を持ったのか、その日に誘われたのですが、さすがに心の準備ができていなくて断りました。でも体がうずうずして『2回目のデートでは彼としよう』と決めて、当日ホテルに行きました。夫とはまったく違う“男”を感じるセックスがたまらなくて、3回目のデートは私から誘い、結果的に彼とは2回セックスしました。でも、あまり深入りすると絶対ハマっちゃうと思ったので、それで関係はおしまい。連絡先も削除しましたよ」。
その後もアプリを通じて2人の男性と会い、それぞれ1回ずつセックスをしたと話します。罪悪感の有無が気になるところですが、Cさんは「1人目の男性とホテルに移動しているときに『とうとう足を踏み入れちゃうんだな』と、若干感じました。でも、いざ部屋に入って事に至ると、目の前の男性に欲情して、夫のことは頭から抜け落ちていましたね」
と正直な気持ちを打ち明けてくれました。

先月、4人目の男性と関係を持ったCさん。その相手はアプリ経由での「新規」ではなく、大学生の頃に付き合った元彼。
「ちょっとムラムラしていたときに、昔の恋人や好きだった人の名前をFacebookで検索していたところ、彼もアカウントを持っていて。懐かしいなと思って友達申請しました。社交辞令で『今度ご飯でも行こう』と言われたのですが、後日私から積極的に日程を提案したんです」。

当時、その彼とはキスしかしなかったものの、それ以上先に進みたかったとCさん。約9年ぶりに会う元彼は硬派キャラが消え失せていて、Cさんの腰に手を回したり、手をつないできたりと「その気」を見せていたといいます。2軒目、3軒目とお酒が進むうちに、Cさんから「ホテルに行こう」と誘いました。
「彼は久しぶりに再会する気まずさを打ち消すためか、相当飲んでいましたし、誘いを断れないタイプなので、私とワンナイトをしたんだと思います。でも9年越しで関係を持てたのは結果的によかったです。ただ、もう会うつもりはありません。何度か関係を持つと、私は溺れていきそうなので」。

1人目の男性は例外ですが「原則1人1回」と、マイ・ルールを定めているCさん。何度か関係を重ねるとのめり込みやすい、自身の性格を意識して、リスクを回避しているのだとか。

「会うのも平日夜と決めています。休日は夫と過ごしたいし、家のこともしたい。平日だと夫が帰ってくるまでに、『新規』の方と別れて帰宅すれば問題ないです。ごく稀に夫より遅く帰りますが、夫は私の変化にまったく気づいていません。男性は完全に自分のものになった女をまじまじと見ないですよね」
と、憂いをたたえた表情で話していました。

総評:恋する昼顔妻はいない。女たちは冷静に性と向き合っている

AさんもCさんもパートナーとのセックスに不満を抱いていることから、よその男性との情事に至っていることは明らかです。それを「ふと魔が差した」ではなく、両者ともに「自らの意思で関係を持つことを選んだ」と話すのが印象的でした。女性の性欲が解放されているといわれるようになった現代社会を反映しているようにも感じます。一部の女性は男性から選ばれる存在ではなく、男性を選ぶ存在になっているのでしょう。このとき頭に浮かぶのは「女性の男性化が進んでいる?」「男性が女性を選ぶ状況が変だった?」ということ。セックスは女性が男性を受け入れないと成し得ないことなので、そもそもこの状態こそが自然な在り方なのかもしれません。

前出の2名の昼顔妻には、ドラマ『昼顔』の女性たちとは大きく異なる点もありました。ドラマでは相手の男性に対して恋に落ち、一時は家庭を顧みず男性のもとに身を寄せてしまう「恋する女性」の姿が描かれていますが、現実の妻たちは冷静です。Cさんは「夫は家族だし人生の先輩でもある。大事な存在だから家庭を壊す気は皆無です」と断言していました。満たされない性的な欲求は外で満たせばいい、と。「それ(外でのセックス)はそれ」と割り切っていることを感じさせます。人の三大欲求には食欲、性欲、睡眠欲がありますが、食欲は“外食”(外)で満たすこともあるでしょう。家庭料理だけでは舌が飽きてしまったり、別の味を楽しみたかったりするわけです。それを考えると、自然な欲求のひとつである性欲も、家で満たされない場合に“外部”で満たすことを全否定すべきではないと思うのです。

とはいえ“昼顔行為”は現代日本では「不貞行為」とされます。決して推奨するわけではありませんが、パートナー間で十分な話し合いを重ねても状況が改善されなかったり、双方の歩み寄りが上手くいかなかったりする限り、昼顔行為に及ぶのは仕方がないと感じます。パズルのピースの中で、性的なピースだけがハマらず、それ以外はぴたっと一致するカップルもいるでしょう。性的な面を除くと最高に気の合うふたりが、傷つけ合って最悪な関係になるよりは、外で欲を処理して中では家族として助け合って生きる――そんな関係性があったっていいと思います。すべてを相手に求めるのは無理。08年に放送されたドラマ『SCANDAL』(TBS系)で、鈴木京香さん演じる妻が「ときに(パートナー間で)見て見ぬふりをしたほうがいいこともある」と諦観した心のうちを見せていました。

『昼顔』ブームで明らかになったのは、女性の性との向き合い方、満たされない欲との付き合い方ではありません。「最後の手段」として外に目を向けるしかなくなった、家庭内での性的満足を冷静に諦めた女性の姿が浮き彫りになったのではないか、と思うのです。

2015.01.05

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記事を書いたのはこの人

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Written by 池田 園子(いけだ そのこ)

岡山県出身。中央大学法学部卒業後、楽天、リアルワールドを経てフリー編集者/ライターに。関心のあるテーマは女性の生き方や働き方、性、日本の家族制度など。結婚・離婚を一度経験。11月14日に『はたらく人の結婚しない生き方』を発売。 写真撮影ご協力:青山エリュシオンハウス 撮影者:福谷 真理子