sex研究部Vol.2 『男子の貞操: 僕らの性は、僕らが語る』著者・坂爪真吾さん
周りの人にはなんとなく聞きづらい、女性の性やセックスに関するテーマ。大事な話ですがネットで調べて済ませていませんか? 専門家の話からセックスをひもとく企画第2弾は『男子の貞操: 僕らの性は、僕らが語る』(以下、男子の貞操)著者の坂爪真吾さん。障害者の性やセックスワークの問題解決を目指して活動する坂爪さんに、現代女性が知っておきたい男性の性とセックスについて伺ってきました。
性の問題を「社会みんなの力」で解決したい
7月某日、東京・渋谷で開催された「セックスワーク・サミット」。テーマは「ぼくらが性を買う理由 ~性風俗・買春にお金を払う『名前の無い男たち』のリアル~」。
サミットを主催するのは、非営利組織・ホワイトハンズ代表の坂爪真吾さん。東大在学中は上野千鶴子ゼミに所属し、ジェンダーについて学んでいました。
当時、性風俗研究の一環として、歌舞伎町や池袋などの繁華街へと出向き、現場で働く人たちへのヒアリングを積極的に行っていたと振り返ります。
「性欲は三大欲求のひとつですが、食欲や睡眠欲と比べるとやや適当に扱われていると感じていました。関わるすべての人が幸せになれるよう、性産業を社会化させたいとの思いから、2008年に起業しました」
高校時代からいつかは会社を興したいと考えていた坂爪さん。どのような事業を展開するか考えたときに、当時ホームヘルパーの資格を取得し、訪問介護の現場に顔を出していたこともあって、障害者の性にまつわる問題を解決する非営利組織・ホワイトハンズを新潟で設立しました。当時から現在まで、脳性麻痺や神経難病を抱える男性重度身体障害者を対象にした、射精介助のケアを行っています。
性に関わるサービスを始めるには、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)で大家の許可を取らなければならないと定められています。しかし東京では許可を取りづらかったため、地元・新潟に戻って起業することに。
「はじめは新潟の一部の地域で事業を展開していました。当初はスタッフもお客さんも集まらずどうしようかと思っていましたが、ホームページ経由で徐々に問い合わせが来るようになりました。現在も新潟を拠点に、北海道から九州まで全国各地でサービスを提供し、累計で430名ほどの方をケアしてきました。スタッフは全国に20人弱いますが、それでも足りないことが現状の課題です」
男性の性が丁寧に語られることはなかった
セックスワーク・サミットの序盤、坂爪さんは「男性の性」に焦点を当てた理由についてこう語りました。
「性風俗利用者の大半は男性です。でもスポットライトが当たり、当事者として語られがちなのは、性風俗産業に従事する女性たち。利用者の男性たちが問題化されることはありません」
実際にこれまで、男性の性が真剣に語られることはなかったと坂爪さんは指摘します。エロ、モテ、非モテ……よくある文脈で軽々しく扱われるのが常でした。それを「問題」として捉えていた坂爪さんが4月に出版したのが『男子の貞操』です。男性著者が男性の性の問題に正面からアプローチした本は、これまでほとんど存在していませんでした。
「元はといえば、大学でのゼミ仲間だった開沼博さんが新書執筆の話を持ってきてくれたことが始まりです。後日、編集者と打ち合わせをする中で、男の性を男の声でしっかり語る本があればいいなと話し合う機会がありました。また現在、恋愛・セックス関連本の多くは、ターゲットがモテる人かモテない人に寄ったものばかり。ちょうど“真ん中”にあたるものがないなと感じていました。だからこそ、本書は今ない“真ん中”を埋める本になればいいなと思って作りました」
モテない男性向けのベストセラー本といえば、二村ヒトシさんの『すべてはモテるためである』が有名。同じく二村さんの『恋とセックスで幸せになる秘密』は女性向け。極端にモテない人でもなく、モテる人でもなく、普通の人に読んでもらう本を作りたかったのだと、坂爪さんは話します。
「裏話になりますが、タイトル案は当初『草食系男子のための知的性生活入門』でした。でも性生活やセックスといった言葉が入ると、レジに持っていきづらいですよね。そこで『男子の貞操』に変えたんです」
タイトルには「男子」とありますが、女性に読んでもらうことを意識して書いた本書の購入者は推定で7割が女性だとか。
セックスを「習慣」にすれば、レス防止につながる
本書では、男性の性・セックスにまつわる射精、自慰、童貞、恋愛、初体験、性風俗、結婚といった7つのキーワードとその処方箋が収められています。とくに射精は、健康な男性であれば誰もが日常的に行う行為。本来、女性の月経と同列に扱われるべき生理現象にも関わらず、「ケアするもの」ではなく「処理するもの」として扱われているのが特徴です。
射精に関しては近年、若い男性を中心に「膣内射精障害」が問題化しています。これは自慰行為では射精できるのに、恋人とのセックスでは射精できない症状のこと。
「刺激の強すぎるコンテンツで自慰行為をし続けたり、激しくこすりつけるなど誤った方法を用いたりしたことによる弊害だといわれています。泌尿器科の専門医も、一度膣内射精障害になってしまうと治りづらいと話していました」
性・セックスとは、どう向き合えばよいのでしょうか。本書では一貫して、性・セックスは探すものでもなく、取り替えるものでもなく、売買するものでもなく、自分の手で作り上げるものである、との主張が展開されています。
「副題に『僕らの性は、僕らが語る』とも入っています。巨乳・素人・JKなど男性が反応するキーワードでくくられたジャンクなコンテンツではなく、生身の女性との性体験の記憶を用いて、自分で性・セックスを作り上げることこそ楽しく、気持ちよいものになるはずです」
とはいえ、現代男性とウェブで簡単に手に入るアダルトコンテンツは、切っても切れない関係でもあります。本書にも、夫が結婚後もアダルトコンテンツを見ているのを知って、ショックに感じる妻がいるといったエピソードが取り上げられています。
「決してアダルトコンテンツ鑑賞を推奨するわけではありませんが、男にとってのアダルトコンテンツはパートナーとのセックスとは完全に“別腹”なんです。そこまで深く考えて見ているわけではないので、それほど気にしなくていいと思います」
本書には長く付き合うカップル、夫婦にとって気になる「セックスレス」の問題へのアプローチも収められています。
「いわゆるセックスフルの夫婦にとって、セックスは愛情があるからするものではなく、ひとつの『習慣』と化しています。一度『週●回する』と決めてしまうと、気分がのった・のらないに関係なく、習慣になるんです。一方で、セックスレスになるのは、する理由や愛情の有無を考えたり、毎回濃厚なセックスをしないと……と真面目に構えすぎてしまうからだと思います。とくに『子どもを授かりたい』というような目標があるなら、回数を重視したり、排卵日に合わせてしたりと、毎回濃密なセックスをしようと意気込むのではなく、日によってセックスの内容や密度を調整するのがいいと思います」
最後にGoogirl読者女性へのメッセージをいただきました。
「とくに20代後半から30代半ばにかけては、どうしても結婚を考えてしまう時期ですよね。僕は自分が28歳、妻が34歳のときに結婚したので、女性が少し焦ってしまう気持ちはよくわかります。プレッシャーと戦うのは大変だと思いますが、本書でも語ったように、自分の性は、自分で語って、自分で作るものです。過度にメディアに踊らされるのではなく、自分で考えて自分の好きな形に作っていく過程自体を、楽しんでいただきたいですね」
坂爪真吾さんの推し本
『二軍男子が恋バナはじめました。』(桃山商事:2014年・原書房) 男同士で恋バナを徹底的に語り尽くす、まさにオトコ版の『SEX AND THE CITY』。男性の恋愛と性に関する本音や心理がよくわかる、大変貴重な1冊です。
▽ 坂爪真吾
1981年新潟市生まれ。東京大学文学部卒。2008年に「障害者の性」問題を解決するための非営利組織・ホワイトハンズを設立。著書に『セックス・ヘルパーの尋常ならざる情熱』、『男子の貞操: 僕らの性は、僕らが語る』がある。