わたしらしい起業のかたち Vol.22 革職人 有馬雪乃さん ~受け取られた方が笑顔になる商品作りを~

編集者/ライターの池田園子が、週末起業家や個人事業主、経営者など、様々なスタイルで起業している女性にインタビューする連載です。

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ネット上でおしゃれな革小物を探していたら、たまたまたどり着いたのが「CxC Leather」というブランドでした。上質な革でつくられた財布や名刺入れなどの上に、リボンがちょこんと乗った、“シンプル上品”なデザインに魅了されました。作り手は有馬さんご夫妻です。

「夫婦で始めた革小物作りが始まりで、お互いが影響を受けたculture、さまざまなcolor、お互いのconceptをときには交え、craftする――そんな思いで『CxC Leather』と名付けました」

とブランドの成り立ちを語るのは有馬雪乃さん。CxC Leatherの特徴は、あえて革へのブランド刻印をしていないこと。お客さまに色の組み合わせを悩んでもらい、一緒になって作るレザーアイテムであり、CxC Leatherの商品ではなく、お客さまの商品という意味を込めて、名入れのみにしているのだとか。

「カラーオーダー、名入れができる商品だからこそ、ご自身の大切な記念として、大切な人へのプレゼントとして選んでいただけることも多いです。その思いに寄り添い、受け取られた方が笑顔になる商品作りができるよう心がけています」

温かい眼差しのものづくりをする人、有馬雪乃さんの起業ストーリーをお届けします。


ハンドメイド雑貨との出会いが起業のきっかけに

Q. ご夫婦で起業しようとなったきっかけはなんだったのでしょうか

A. もともと主人が趣味でレザークラフトをしていたんです。私は当時、特に興味もなく、横目で見ているくらいでしたが(笑)。ただ、雑貨の卸しをしている会社でパートとして働き始めてから、ハンドメイド雑貨に興味を持つようになったんです。自分でも何かできないかと考えたとき、身近にあったのがレザークラフトでした。主人の協力も得ながら、ミニチュアブーツの製作を始めたのが、最初のきっかけです。
その後、主人がスマホケースを自作しているのを見て、「私も作ろう」と自作したものが今も好評をいただいている、本革のリボン付きのスマホケースでした。

やっぱり雪乃さんのアイデアだったんですね!

私たちが主な素材として取り扱っているヌメ革は、男性的なイメージを持たれやすいんです。でも、リボンをつけることで、女性にも受け入れていただけるデザインになるなぁと、周囲から大きな反響をいただいて実感。
ちょうどminneやcreemaなどのハンドメイドサイトが、メディアに取り上げられるようになった2015年春頃に、自分たちで販売を開始しました。それから徐々に認知度も上がり、販売数も伸び、周りに協力も得ながら進めるなかで、主人も兼業の限界を感じて、2017年の夏に脱サラを決意。趣味、好奇心がきっかけで始めたものが約3年で本業となり、今に至ります。

Q. 今はご夫婦でどういうふうに仕事を分担されていますか?

A. 受注管理・販売協力2社、製作協力1社との調整や材料手配・全体管理が主人担当で、受注確定後の製作~発送までの製作管理を私が行っています。始めたときは夫婦ふたりでしたが、今では製作4名、管理1名、3社の協力をいただいています。

喜びの声や厳しい意見…お客さまからの言葉が励みになる

Q. 会社に雇われない働き方をされています。自分たちで仕事を生み出し、活動するなかで、どんなときに喜びややり甲斐を感じますか?

A. 運やタイミング、努力……いろいろなものが重なって、3年で本業として独立することができました。お手伝いいただいているのも幼稚園のママ友が中心。協力していただいている企業も主人の友人や前職の取引先となります。多くの方との縁、協力をいただき、多くのお客さまに求めていただいた結果として、今のCxC Leatherが存在することに、大きな感謝と喜びを感じています。
ゼロからスタートし、目標に掲げたことを少しずつ実現させるなかで、やり甲斐を感じ続けています。お客さまから喜びの声をいただくのがすごくうれしく、時には厳しいお言葉も改善点が見つかるという点で非常に参考になります。
夫婦で独立することにリスクも感じましたが、今となっては独立して良かったと思っています。以前と比べて子どもとの時間も取れるようになったのも理由のひとつですね。基本的には夫婦ともに自宅で、平日9時~18時の時間帯での作業となり、合間に家事、育児を分担して行っています。

革の魅力は「育てる」ことにある

Q. CxC Leatherで展開する革小物のこだわりについて教えてください

A. まずは素材です。革はもちろん、ファスナーや生地、金具と、厳選したものを使用しデザインは極力シンプルに、革の魅力を存分に楽しんでいただけるよう作っています。

Q. CxC Leatherで使っているのはヌメ革ですよね。ヌメ革の魅力とはどんなところでしょうか?

A. 植物性のタンニンで時間をかけて鞣(なめ)される革は、繊維が詰まっていて、とても丈夫です。多くは革の表情を生かすため、染料で染色をしているんですね。自然で温かみのある表情があり、使用するにつれて色目が変化する革は、手に取ったときがゴールではなく、使い始めたときがスタートになるのが魅力だと思うんです。
よく「革を育てる」という表現をされますが、まさにその通りだと思います。使うにつれて革は柔らかく、しなやかな革へと変化していき、定期的にメンテナンスをすることで色に深みや艶が増すのも味わい深いですよね。時には傷がつくこともありますが、それも含め革の味を感じられるようになったら、ヌメ革の虜になっている証です。

お客さま自身が選んで作る、世界でひとつだけの商品が強み

Q. 公式ショップのほか、いくつかのショップで商品を展開されています。数あるブランドの中でお客さまに選ばれるために、どんなことを心がけていますか?

A. さまざまなブランド、商品の中から選んでいただくには、私たちの商品に魅力があること、商品を知っていただくことが重要だと考えます。素材のクオリティだけではなく、商品ごとに革の厚みを調整し、曲がりやすさや軽さ、革の使用後の変化を考慮した商品作りを心がけています。
強みは、お客さまの好みでお作りをするカラーオーダーができ、シンプルであってもご自身で選ぶカラーの組み合わせで、他にはないオリジナルの商品をお届けできることだと思うので、今後も厳選した革の追加、技術の向上に努め、魅力を高めていきます。minneやcreemaなどのサイトについては、商品のピックアップやランキングに掲載いただけることもあり、両サイト内での認知度はある程度獲得できていると思います。
ただ、ハンドメイド市場でのみ認知されているくらいで、大きなマーケット、ブランド単体でいうと、致命度はないに等しいと考えています。商品力の向上と宣伝、販売の強化を行い、多くのお客さまに支持していただけるブランドを目指します。

目指すのはハンドメイド作家からブランド・企業への転換

Q. 今後の展望や挑戦しようとしていることを教えてください

A. 先行して認知していただいているのはリボンデザインの商品ですが、今年は革の魅力やカラーオーダーのアピールで、男性層にも手にとっていただけるよう努めます。基本的には、性別・年齢を問わず多くの方にお求めいただけるよう、商品構成も拡充するつもりです。楽天への出店準備も進んでいるので、ハンドメイド作家からブランド・企業へと変換できるよう認知度を上げていきたいと思います。
将来的には革小物だけではなく、家具やアウトドア商品など、趣味の世界にも革製品を広げ、ライフスタイルの提案ができるようになりたいです。趣味がキャンプ、住まいが滋賀県なので、琵琶湖沿いまたは山や林の自然の中に工房を立てるのが当面の夢ですね。

まとめ

「ヌメ革、真鍮素材の金具は、さまざまな要因で経年変化します。製作に人の手が触れ、完成後に袋に入れて保管をするだけで、変化が始まる場合があります」

と、基本的に受注製作としている理由を教えてくれた雪乃さん。
極力、変化が起こるのは、お客さまの手に触れてからという思いから、「鮮度」も大事にしたいと語ります。素材と真摯に向き合い、使う人の笑顔や幸せを想像しながらものづくりをする雪乃さんの姿勢には、すべての働く人へのヒントがあふれているように感じました。

▽ 有馬雪乃さん

1981年1月29日生まれ、37歳。東京の美容専門学校を卒業後、美容関係の仕事に携わる。夫の地元・滋賀県での就職に伴い、27歳で移住・結婚。28歳で長男、30歳で長女を出産した二児の母。34歳で雑貨卸会社にパート勤務した後、夫婦で「CxC Leather」を運営。2018年時点で5種類の革・32色を用意し、今後も展開を増やす予定。厳選した素材を用いて、お客さまが好きな色の組み合わせで作るセミオーダーがメイン。

▽ 前回の記事はコチラ
▽ ホームページ:CxC Leather

2018.02.28

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記事を書いたのはこの人

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Written by 池田 園子(いけだ そのこ)

岡山県出身。中央大学法学部卒業後、楽天、リアルワールドを経てフリー編集者/ライターに。関心のあるテーマは女性の生き方や働き方、性、日本の家族制度など。結婚・離婚を一度経験。11月14日に『はたらく人の結婚しない生き方』を発売。 写真撮影ご協力:青山エリュシオンハウス 撮影者:福谷 真理子