わたしらしい起業のかたち Vol.21 ハピキラFACTORY代表/ソニー 新商品企画担当 正能茉優さん ~自分が好きなことをWhatではなく、Howの視点で考える~

編集者/ライターの池田園子が、週末起業家や個人事業主、経営者など、様々なスタイルで起業している女性にインタビューする連載です。

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パラレルキャリア、という言葉を聞いたことはありますか? パラレルキャリアとは簡単に言うと、本業と同時並行して他の仕事を手がけたり、非営利活動に参加したりする、新しいライフスタイルのこと。近年注目されるようになった概念です。
この言葉が生まれる前から、パラレルキャリアを実践してきたのが正能茉優さん。大学時代に株式会社ハピキラFACTORYを創業し、新卒で広告代理店に入社。現在はソニーで新商品企画に携わりながら、ハピキラFACTORY代表取締役として、個人での活動も継続しています。
正能さんがユニークなのは、超大手企業に所属しながら、経営者としての顔も持っていること。正能さんは自身のキャリアを「ビュッフェキャリア」と名付けています。

「数年前、この働き方を始めたときは、『起業家か大企業の社員か、どっちか1本に絞るべき』と周りから言われることが多かったんです。そもそも1本にする必要はあるのだろうかと、疑問に感じました。私は自分の会社にも就職にも興味があるし、どちらも大切にしたい。自分の働き方をどう説明すると良いんだろう……と考えた時期もありました。
そんなときに思いついたのがホテルのビュッフェでした。ビュッフェに行って、おいしそうなカレーやパスタ、デザートがあった。だから『好きなものを、好きなバランスで、好きな量食べよう』働き方・生き方もそんなふうに考えたらいいんじゃないかと思ったんです。そこで、好きなことを、好きなバランスで取り組んでいくこの働き方を、ビュッフェキャリアと名付けました」(正能さん)

そんな正能さんの起業ストーリーをお届けします。

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起業はしたいことを実現するための手段だった

Q. 大学在学中に起業されたきっかけは何でしたか?

A. 「起業しよう」と思って起業したわけではないんです。長野県小布施町で「小布施若者会議」という、小布施町を人が集まる魅力的な場所にするには、何ができるのか話し合うイベントを開催したことが発端となりました。
初回の参加者は男女比3:1くらい。どうして女の子が来てくれないんだろう、って考えたんです。思いついた理由のひとつは、地方にポジティブなイメージを持っている人が少ないことでした。都会と比べてなんとなく暗いし、おしゃれじゃない……みたいな。
でも、生まれも育ちも東京の私自身、小布施町で過ごしてみてびっくりしたんです。例えば、町のお祭りには多くの町民が積極的に参加したり、通りすがりの子どもが当たり前のように挨拶してくれたり。人との距離感だったり、そこで暮らす人と一緒にいることが心地良くて、東京で暮らすよりも幸せかもしれない、とも思いました。
そんな小布施の魅力を、地方の魅力を、イベントには呼べなかった若い女性に知ってもらいたい、という思いが生まれました。そこでまず、小布施町の特産品の栗鹿ノ子をかわいくリニューアルして売り出すことにしました。

苦手なことはしないで、得意なことに全力を注ぐ

Q. 起業は好きなことをするための、ひとつの手段だったんですね。驚いたのは起業後、超多忙な広告代理店に就職されながらも、ハピキラを続けてこられたこと。どう時間を割り振りしていたんでしょうか?

A. プラナーとして勤めた2年半、いろいろなジャンルの商品を担当させてもらいました。プラナーは営業さんとは違い、複数のクライアントさんを同時に担当するんです。だから、同時に動いているプロジェクトはとにかく膨大だったと思います。正直、どう両立させていたのか、覚えていないくらい目まぐるしかったかも……(笑)。
ただ私、瞬発力はある方かなと思います。降ってくる玉の数が膨大だからこそ、なるべくその場で打ち返すことを心がけてきました。判断するか、いつまでに判断するかを決めるか。もうひとつ、苦手なこと、つまり自分がやって時間がかかることは、外にお願いすることにしています。たとえば自分の仕事では領収書の整理ができないから、外部にお金を払って依頼したり。
家のことで言うと、洗濯は代行サービスにお願いしてます。自宅に洗濯機を置いてなくて。週に1度お願いして、柔軟剤まで選べて、Tシャツが45枚ほど入る量で、送料込みで2,000円くらい。数日に1回まとめて出すだけなので、本当に楽です。ストレスを感じながら不得意なことをするよりも、自分が得意なことに全力を注いで、そこでいただいたお金で、苦手なことを誰かにお願いする方が、楽しく生きていけるんじゃないかなと思います。

困っている人を自分の好きなことでお手伝いする

Q. 正能さんの活動を見ていると、仕事が「つらい」「大変」「稼ぐためにしている」ものには見えません。好きなことを仕事に変えている、という印象。そのスタイルに憧れる女性たちへアドバイスをいただきたいです。

A. まず、自分の好きなことを仕事にするためには、自分の好きなことが誰かのためになっている必要があります。自分がしたことに対し、「いいね」とか「ありがとう」と思ってくれる人がいて、初めてお金をいただけるわけですから。でも、そこさえクリアすれば、好きなことを仕事にできるんです。
考え方としては、誰のためにどんなことをするとお金になるのか、という視点から入ること。自分が好きなことをWhatではなく、Howの視点で考えて、その価値を活かせる場所に掛け合わせることがポイントかなと思います。
私の場合は、かわいいものが好きで、中身がイケてるものをかわいくするのが好き(How)。でも、それをかわいいものが集まっている東京のど真ん中でがんばっても、競合は多いですし、うまくはいかないでしょう。
だから、“誰”の部分を考えるんです。困っている人は誰で、どこにいるだろう、って。そこで、「かわいい」というHowの場合は、「地方」という場が考えられるわけです。地方にはいいものを作れるのに、かわいいパッケージのデザインがわからない、みたいな会社は少なくないですからね。

ハピキラで培った「探す・作る・広める・売る」スキルを会社でも活かす

Q. 現在、ソニーではどんな仕事を任されていますか?

A. 新商品の開発です。みんなにこんな体験をしてほしいということをベースに、社内にある基礎技術を使って、商品を生み出す仕事。
ハピキラと同じで、「つくる」だけではなく、その先にある、広める・売るということにも責任を持ちたいなという目線で企画しています。ただ、モノをつくるだけでは売れないから、販路を獲得して、ちゃんと知ってもらえるようなPRやプロモーションまで考えて、企画を進めていくのがベストですよね。

世界をたくさん持ち、これからも広げていく

Q. パラレルキャリアを実践してきたからこそ、さまざまな場でスキルを柔軟に活かせるのでしょう。先んじてパラレルキャリアを実践してきて良かったと感じることは?

A. “正能茉優”をたくさん持っていることです。例えば、ソニーの正能茉優としてイベントをするとき、ハピキラの正能茉優としてお世話になっている方にお願いして、それが実現したり。いい形で「のりしろ」になれたなと思うときはうれしいです。
あとは、自分を複数持つだけじゃなく、まったく違う世界にいる自分も大切にしたいなと感じます。広告/ソニーの新規事業/ハピキラ/大学の研究員etc.と、遠くかけ離れた“タグ”を持っていると、それらを掛け合わせて、新しいチャレンジもしやすくなります。
ただ正直な話をすると、手持ちのタグでできることが、ある程度見えてきた感もあります。持っているタグを使ってできることを繰り返していれば、お金にも困らないし楽しい。でも、面白味や新鮮味がない。だからずっと「世界を広げる」ことは意識的に続けていきたいと考えています。

まとめ

この1~2年で広まりつつあるパラレルキャリア。ピーター・ドラッカー氏が著書『明日を支配するもの』(ダイヤモンド社)などで提唱したこの生き方は、働き方改革への関心が高まる今、大きな注目を集めるようになりました。
ひとりがひとつの会社に定年まで勤め上げる、終身雇用制というスタイルは、なくなりつつあると言っても過言ではありません。人生100年時代とも言われる今、第二、第三の人生の準備も欠かせないものになるでしょう。
正能さんが提唱するビュッフェキャリアのように、自分が好きなものを仕事として、好きな配分でいくつも持つ――これからの時代の新しい生き方、働き方を自分なりに模索しながら探していこう、と背中を押される出会いでした。

▽ 正能茉優さん

1991年生まれ、東京都出身。2010年、慶應義塾大学総合政策学部入学。2012年小布施若者会議を創設し、2012年(株)ハピキラFACTORYを創業。卒業後は広告代理店に就職。現在はソニー(株)に転職し、(株)ハピキラFACTORYの社長も務める「パラレルキャリア」実践者。

▽ 前回の記事はコチラ
▽ ホームページ: ハピキラFACTORY

2018.02.26

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記事を書いたのはこの人

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Written by 池田 園子(いけだ そのこ)

岡山県出身。中央大学法学部卒業後、楽天、リアルワールドを経てフリー編集者/ライターに。関心のあるテーマは女性の生き方や働き方、性、日本の家族制度など。結婚・離婚を一度経験。11月14日に『はたらく人の結婚しない生き方』を発売。 写真撮影ご協力:青山エリュシオンハウス 撮影者:福谷 真理子