わたしらしい起業のかたち Vol.17 起業家 和田 真由子さん ~女性が胸を張って生きていく、運命の1枚を追求していきたい~

編集者/ライターの池田園子が、週末起業家や個人事業主、経営者など、さまざまなスタイルで起業している女性にインタビューする連載です。

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自分ではコンプレックスだと感じていることを、他人は「うらやましい」「いいな」と感じる。でも、自分ではそれが悩みのタネで、どうしようもない……。どんなに完璧に見える人でも、そういったコンプレックスを、ひとつやふたつは抱えているもの。
例えば、「胸が大きい」という体の特徴も、当事者にとっては大きな悩み。運動時に揺れて痛い、肩がこりやすい……。さらには服がきれいに着られない、太って見えてしまうといった、自力では解決しようもない悩みを抱える方は少なくないようです。
そんなコンプレックス・悩みを起業の“テーマ”に結びつけた女性がいます。胸が大きい女性向けのアパレルブランド「overE(オーバーイー)」を展開する、合同会社エスティーム代表の和田真由子さん。
スポーツ雑誌の編集部員として出版社に2年勤め、準備期間を経て、未経験のアパレル分野で起業した和田さんは、自身も胸が大きいことに悩み、「大学時代は着ていく服がなかった」と振り返ります。そんな和田さんの起業ストーリーをお届けします。


東京マラソンを走り切ったとき、「人生もこんなふうに走りたい」と決めた

Q. 「起業しよう」と決意するきっかけはなんだったのでしょうか?

A. 2015年2月、東京マラソンを完走したのがきっかけです。苦しくても走り続けるなかで身にしみた周囲への感謝の気持ち、ゴールしたときの達成感から、「人生もこんなふうに走りたい」という思いが生まれました。そのときに、以前から漠然とした夢だった「起業」をしようと決めたんです。

「自分の悩みの原因」と徹底的に向き合って、事業内容を決めた

Q. その後、事業としてアパレルブランド「overE」の展開を決めたのはなぜですか?

A. 事業内容を考えるとき、昔からの悩みだった「自信のなさ」の原因を探ることから始めたんです。私は大学を中退しています。その契機となったのが、学校に着ていく服がなかったことでした。さらに、大学生活にあまりにも適応できなくて、医師の診断を受けたところ、ADHDという発達障害であることもわかったんです。
そのことでますます自信が持てなくなり、常に人目が気になって仕方がありませんでした。最初は入念なメイクを盾になんとか通っていましたが、2時間以上かけてようやく家を出ようとしたところ、クローゼットの中にある服をどれだけ着てもしっくりこなくて……。

「もし、あのとき私が自信を持って着られる服があったら」から、ないものを作る旅へ

Q. しっくりこない、というのは服がきれいに、自分の思い通りにキマらない、ということでしょうか。

A. それだけでなく、当時人間関係の悩みを抱えていたのも関係しています。具体的には、同性からのいじめです。大きな胸を強調していると思われることや、胸で服の生地が持ち上がるせいで、ワンピースなどの丈が短くなってしまうことが、恐怖でたまらなかったんです。結果、学校に行くのをやめ、以後2年くらいは半引きこもりの状態でした。
起業を決めた2015年に改めて当時を振り返り、「もしあのとき、私が自信を持って着られる服があったら」と考えました。周囲にも「胸が大きな女性向けのアパレルブランドを作りたい」と話したところ、共感と多くの応援をいただき、事業を起こそうと決めたんです。
下着メーカーが発表していた、近年胸が大きな女性の割合が増え、4人に1人はEカップ以上という統計も起業の後押しとなりました。とはいえ、アパレルの知識も人脈もないので、まずは「胸が大きな女性向けのシャツが作りたいんです!」と工場を突撃。パタンナーさんが胸が大きな女性だったことから、手厚いご協力をいただき、製品作りをスタート。ようやく納得のいくものができ、着想(2015年5月)から1年3か月後となる2016年8月に会社を設立。同月中にクラウドファンディングサイトでの「overE」発表に至っています。

純粋に胸が大きな女性を意味する「overE」が、言葉としても社会に根づいてほしい

Q. 「overE」というブランド名、ブランドに込めた思いを教えてください

A. 胸が大きい女性を表す言葉には、「巨乳」「爆乳」などがあります。中国語の「大胸」も英語の「big boobs」も、検索すればもれなく男性向けサイトがヒット。「グラマー」も、プラスサイズと混同して扱われていることが多いですよね。「overE(オーバーイー)」はそれらに代わる、純粋に胸が大きな女性を意味する言葉にしたくて名づけました。本来は人によって胸のボリューム感は異なりますし、Eカップ以上=胸が大きいと決まっているわけでもありません。
ただ、ブランドの域を超えて、日常会話や胸が大きな女性向けの服を探す際の検索ワードなど、生活に根づくには「わかりやすさ」こそが大事だと考えたんです。「私もoverEです」など実際に使ってくださる方もいてとてもうれしいです。また、「underE」など派生語を生む方もいて面白いですね。

胸が大きな女性のあるあるな悩みを細かい仕掛けで解決したい

Q. 「overE」で展開する洋服のこだわり(機能性、デザイン性)について教えてください

A. 胸が大きな女性の抱える既製服の機能的な不満を解決しつつ、ほっそりとした美しいシルエットを実現できるようにしています。「美乳、細みせ叶うシャツ」は、バストをすっきり見せ、ウエストをキュッと絞ったシルエットが特徴。パネル(切り替え)の幅と高さを日本女性のバストトップに合わせているので、生まれる影によって、さらに着痩せして見えるのも秘かなこだわりです。
胸元のボタンが弾けたり、横から下着が見えていたり……という経験は胸が大きな女性あるある。この機能的な問題には、胸元のボタンのすき間に、隠しボタンをふたつ付けて対策しています。1年前にこのシャツを発売してから、すでに3回パターンや仕様を修正しています。その度に何度もサンプルを作っていて、資金的にも大変ですが、お客様の生の声や思いに耳を傾け、運命の一枚を追求していく……。その一心で改善を重ねています。

意思疎通がうまくいかず海外工場とのトラブル……それも乗り越えて糧にする

Q. 商品開発をするなかで乗り越えてきた苦労エピソードがあれば教えてください

A. ジャケットが量産開始1か月前に白紙になった、苦いエピソードがあります。国内で作るとどうしても3万円を切らないため、中国の工場を開拓し、半年ほどコミュニケーションと試作を重ねていました。
ギョッとしたのは、最終確認のためにあがってきたサンプルを目にしたときです。オーダーしていたものと全然違う形で、話を聞くと、数値だけ合わせて勝手にパターンを作ったと言うんです……。パターンは私たちが一番大切にしているものですから、予定していた3月に発売するのは断念し、工場探しから再スタートしました。
結果的にリリースは5月末。「Fashionsnap.com」様がLINEのトップニュースで配信してくださるなど、メディアでも多く取り上げていただきましたが、もうそれは暑くなり始めた頃。さらに撮影スケジュールが組めず、社員をモデルとして、素人の私が撮影するという、商品の魅力を伝えきれない、残念な経験となりました。

お客様から直接寄せられる声、リピートされることは何にも代えがたい喜び

Q. それは大変な経験でしたね。一方で、起業家として活動するなかで感じている喜び、やりがいはなんですか?

A. 何よりもうれしいのはやはり、お客様からの声ですね。SNSに着用写真をあげてくださる方、ECサイトにレビューを寄せてくれる方、そしてショールーム(毎週土曜に銀座アトリエを開放、10月14日まで)にお越しくださった方から、「感動しました」など、直接お言葉をいただけると……感無量です。
やりがいを感じるのは、リピートのご注文をいただいたとき。繰り返し購入いただける、というのは、お客様が本当に気に入ってくださったということなので。これは自慢になりますが、なんと6割のお客様がリピーター様です!

女性の前向きな生き方を応援する、リアルクローズを生み出すブランドでありたい

Q. この先、overEというブランドを通じて、実現したいこと、今後の展望を教えてください

A. 「胸を張って生きていく、運命の1枚」を「お客様と一緒に追求する」。この思いに真っ直ぐ取り組み、女性の前向きな生き方を応援する、そのためのリアルクローズをお客様と一緒に追求し続けるブランドでありたいです。
ちなみに、商品の価格帯はシャツが7,900円~、ワンピースが13,000円台~。新作は原価が5割を超えていますが、普通のOLだった自分たちが買えない値付けはしないと決めていて、経費削減やより良い資材の仕入先開拓に努め続けたいと思います。
直近では、百貨店でのポップアップストアやショッピングストアへの小規模出店を目指しているので、「お店で服が見つからない」お客様に来ていただきたい方がいらっしゃいましたら、ぜひお声がけください!

▽ 和田真由子さん

胸が大きな女性に光を当てたアパレルブランド「overE」を運営する、合同会社エスティーム代表。東京都主催のビジネスコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY 2016」では、1,000件の応募の中からセミファイナリストに選出される。2017AWより新たにワンピースコレクション(13,000円~)を発表。「理想のワンピース」と題して、お客様に襟の形から袖丈・色・形・着たいシーンや細かなこだわりまでアンケートを取った結果に基づいて製作。

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▽ 公式サイト: ESTEEM Inc.
『overE』オンラインショップ

2017.09.28

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記事を書いたのはこの人

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Written by 池田 園子(いけだ そのこ)

岡山県出身。中央大学法学部卒業後、楽天、リアルワールドを経てフリー編集者/ライターに。関心のあるテーマは女性の生き方や働き方、性、日本の家族制度など。結婚・離婚を一度経験。11月14日に『はたらく人の結婚しない生き方』を発売。 写真撮影ご協力:青山エリュシオンハウス 撮影者:福谷 真理子