わたしらしい起業のかたち Vol.15 NAO LINGERIEデザイナー 栗原 菜緒さん ~ランジェリーの力で、思いやりと愛にあふれる社会を~

編集者/ライターの池田園子が、週末起業家や個人事業主、経営者など、さまざまなスタイルで起業している女性にインタビューする連載です。

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お気に入りのランジェリーを身に着けると、その日一日を前向きに、朗らかに過ごせるような気がする――。ランジェリーにこだわりのある女性、ランジェリー選びを楽しんでいる女性なら、「わかる、わかる!」とほほえんでうなずいてくださるのではないでしょうか。

好みのランジェリーをまとうことで、気分を上げることができたり、自信を持つことができたり。肌に最も近い、つまり自分自身と一番近い存在ともいえるランジェリーは、大きなパワーを秘めています。

一度ランジェリーの魅力を知るとトリコになってしまう。筆者もそうですが、筆者の周りのランジェリーをこよなく愛する女性たちも、そう話してくれます。

中学生の頃、下着を買うために訪れたお店でランジェリーに魅せられた栗原菜緒さんも、ランジェリーへ愛情を持つ女性のひとり。当時、「ランジェリーとは自分の美しさを引き出すもの」と気づいた、と言います。

初めて自分で買ったランジェリーは、マリンブルー×青い花の美しい装飾が施されたもので、高校生のときでした。それを機に、ランジェリーの官能的で甘美な世界観を楽しむように。

ランジェリーへの熱は冷めることなく、学生時代はランジェリーブランドの販売に携わり、ランジェリービジネスを学びながら、2014年には自身のブランド「NAO LINGERIE(ナオランジェリー)」を立ち上げました。そんな栗原さんの起業ストーリーをお届けします。

23歳で、「女性が胸を張って着けられるランジェリーを作りたい」と目標を掲げた

Q. 大学卒業後は外務省や出版社、コンサルなど、さまざまな業界を渡り歩いてこられました。そもそも「ランジェリーブランドを立ち上げよう」と思い立ったのは、いつ、何がきっかけだったのでしょうか。

A. ランジェリー店でフィッターのアルバイトをしていた23歳の頃です。「自信を持って販売できるランジェリーを作りたい」と心から願う瞬間がありました。

そのとき、具体的にどんなランジェリーを思い浮かべていたかというと、洗練された華やかなデザインで、1日中着けていても疲れず、日本の女性が日本社会の中で胸を張って着けられるもの。

思い立ったらすぐに行動しないと気が済まないタイプなので、「将来ランジェリーブランドを立ち上げるために、外の世界で勉強したいと思っています」と、社長に退職の意を伝えに行きました。

それから6年後、自身のブランドであるNAO LINGERIEを立ち上げました。ご報告しようとあいさつに行った際、社長は「本当に立ち上げたのね!」と驚きつつも、とても喜んでくださったのを覚えています。そう言っていただけて、私自身もとてもうれしかったです。

ブランドコンセプトは「自尊心を満たし、他者の幸せを願う」こと

Q. NAO LINGERIEというブランド名、ブランドに込めた思いはなんですか?

A. ブランド名は悩んだ末にたどり着いた、一番シンプルなものにしました。ぱっと見てランジェリーブランドだとわかること、今の時代は「作り手は誰か」がとても重要視されていることから、ランジェリーというワードと自身の名前を入れさせていただきました。

そして、私が最も大切だと思うこと、理想としている「自尊心を満たし、他者の幸せを願う」ことを、自由に素直に、飾ることなく、おごることなく、コンセプトとして掲げています。

私は、“深い思いやり”こそが、この世で最も美しいものだと信じているんです。聖人君子ではないので、四六時中それを実践することはできず、反省することも多々ありますが、せめてその気持ちを忘れずに生きていきたいと切望しています。

日本国内から集めた最高の素材で、「人を思う」着け心地を追求し続ける

Q. NAO LINGERIEで展開するランジェリーはすべて日本製。緻密なデザインが美しいものばかりです。機能・デザインともにこだわりを教えてください

A. 日本各地から厳選した最高級のシルクやレース、オーガニックコットンを使用しています。その優れた素材を引き立てるのは、ベテランのパタンナーと共に、トライ&エラーを繰り返して完成させた「人を思う」独自のパターンです。

ブラジャーは本当に繊細な品物で、1ミリ・1度のわずかな差が、身に着ける人の体を傷つける可能性があります。パターンを引く際に、0.03ミリの世界でこだわり、バストをしっかりホールドするのに1日着用していても疲れない、快適な着け心地を追求してきました。

販売しているランジェリーのひとつひとつに名前を付けているのも特徴です。たとえば、2016秋冬コレクションのひとつである、赤いリバーレースをたっぷり使った「WARM HEARTS」には、「心の暖かいともしびを 小さくても守り続けたら 喜ばしい愛が誕生する(Keep and protect your warm heart no matter what happens.)」というように。

流れの早い現代社会を生きていく上で、気持ちを切り替えるためのTipsや人間としての理想像、毎日を前向きに歩んでいける言葉を含めて、ランジェリーをお届けしたい。そんな思いで日々ものづくりをしています。

「こんなランジェリーがほしかった」と言われると、泣けてくる

Q. 真面目に、そして丁寧に、ものづくりに取り組んでいるなかで、どんなときに喜び、やりがいを感じますか?

A. やはり私も現代に生きる身、ゼロからつくりあげたものに対し、たくさんの方が共感してくださるととてもうれしいです。

「こういったランジェリーが本当に欲しかったんです」と伝えてくださったり、「NAO LINGERIEを着たときに自尊心を満たされる」という感覚を体感してくださったり、お客様の満足感あふれる笑顔を見ると、このブランドを立ち上げて本当に良かった……と、涙が出てくることがあります。

私の起業の出発点は、「何をしたら稼げるか」というより、「本当に良いランジェリーを作りたい」という純粋な思いでした。立ち上げからたくさん広告を打って宣伝する、という手段は選ばず、パターンやデザインの改良を地道に重ね、お客様と真摯に向き合ってきた結果、4年目にして実りつつあると感じています。

睡眠時間を削って、すべてをひとりで担った時期

Q. デザイナーとしてものづくり、そして経営者として事業を展開するなかで、大変なことも少なくないと思います。どう向き合ってきましたか?

A. 私の場合、3年間は人を雇う余裕がなかったです。すべてを自分ひとりでやらなければならないのが最も大変でした。デザインにクリエイティブ、製造管理・営業・販売・事務経理など、寝る時間を削って、全部をひとりで同時進行していました。

投資や出資を受けたくなかったので、売上を伸ばして乗り切ろうと集中していたんです。他の経営者からは、「ボランティアで手伝ってくれる人もたくさんいるから頼んでみるべきだ」とアドバイスをいただきましたが、それもせず。

今では素晴らしいスタッフと巡り合うことができ、日々気持ちよく仕事をさせてもらっています。今後も優秀なスタッフが入ってくるので、皆の能力がもっともっと開花するよう、体制を整えたいと思います。

ランジェリーの力で、思いやりと愛にあふれる社会を

Q. この先、ランジェリーというアイテム、NAO LINGERIEというブランドを通じて実現したいこと、⽬標を教えてください

A. ランジェリーは、女性性を賞賛し、自尊心を満たすもの。そして、時には心の盾にもなってくれます。いつの時代も生きにくい社会ではあると思いますが、どんな言葉を他者から受けても、はねのける強さやしなやかさが、優れたランジェリーには備わっていると思うのです。

他者を攻撃するのではない、女性だからこその母性や愛情で包み込む真の強さを、ランジェリーを通して身につける方が増え、思いやりと愛にあふれる社会になったら嬉しい です。

また、NAO LINGERIEは、日本だけでなく世界でも展開していくつもりです。ブランド立ち上げ前のキャリアで、外務省や出版社、コンサル会社を選んだのは、日本のPRに携わる事業やそのための学びを得たかったから。

そのなかで、リサーチ業務や書籍等の編集業務、建築業界組合や中小企業が集まる社団法人の事務局、社長秘書業務、飲食店立ち上げ、日本の伝統工芸品のPR、流通、イベント企画運営など、さまざまなことを経験させていただきました。

今も日本のPRに関わりたい、という気持ちは変わっていません。独自の経験や知見を活かし、NAO LINGERIEを通して、民間の外交官として草の根活動ができたらこの上ない幸せです。

▽ 栗原 菜緒(くりはら なお)さん


「NAO LINGERIE(ナオランジェリー)」デザイナー。日本ランジェリー協会 専務理事。「品と知性のある官能」をコンセプトに掲げ、日本を代表する優れた素材を全面に用い、職人が細部まで丁寧にこだわって創りあげた、愛情満載のランジェリーを展開する。銀座で完全予約制のサロンも。

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2017.08.07

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Written by 池田 園子(いけだ そのこ)

岡山県出身。中央大学法学部卒業後、楽天、リアルワールドを経てフリー編集者/ライターに。関心のあるテーマは女性の生き方や働き方、性、日本の家族制度など。結婚・離婚を一度経験。11月14日に『はたらく人の結婚しない生き方』を発売。 写真撮影ご協力:青山エリュシオンハウス 撮影者:福谷 真理子