わたしらしい起業のかたち Vol.5 大西明美さん

編集者/ライターの池田園子が、週末起業家や個人事業主、経営者など、さまざまなスタイルで起業している女性にインタビューする連載です。

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過去に何度もアルバイトをクビになっていた大西明美さん。理由は「これをするとお客さまが喜ぶのでは?」「こうするともっと効率的に動けるのでは?」と思いついたことをマニュアルやルールを無視して自ら進んでおこなっていたから。いい意味でクリエイティブ、悪い意味でテンプレート化されたやりかたにはなじめない……。
そんな大西さんの起業ストーリーをのぞいてみましょう。


人と人とをつなげる仕事をしたくなった

Q. 結婚相談所を起ち上げた理由はなんだったのでしょうか?

A. 1度目の結婚をしていた当時、ネット通販事業をやっていたんです。離婚後もそれを仕事としてやっていて、月商300〜500万円程度をコンスタントに売り上げていて、ビジネスとしては成功していました。
でも、自分ひとりで事業をしていましたから、誰も喜んでくれる人がいなくて、とてつもない孤独感をおぼえていました。『クリスマス・キャロル』に登場する、さみしいスクルージおじいさんのような感じ、といいますか(笑)。
離婚して自由になって楽しい反面、ビジネスが軌道にのって時間ができて退屈になったときに、家族って大事だなと感じはじめていたんです。それもあって、私のようにひとりぼっちでツラい人のために、人と人をつなげる仕事をしたいと思うようになり、33歳のときに結婚相談所を起ち上げました。

Q. 起業するにあたり、どんな準備をしましたか?

A. 最初は“入会無料”とし、リスティング広告でイチから集客をおこないました。これまでやっていた通販事業とちがう最大のポイントは、仕入れるのがモノではなくヒトだということです。財産をつぎ込んで、半年くらい時間をかけて、人集めにいそしみました。ネット広告は通販事業をしていたときにも活用していたので、当時の経験が役に立ちましたね。

お客さまに本音を語ってもらう技術

Q. 通販事業と同様、人が集まったあと、事業はうまく走り出したのでしょうか?

A. 最初はダメでしたね(笑)。というのも、お客さまが入会前に「◯◯な人と結婚したい」とかかげる条件や理想像はたいてい本音ではない、ということを理解していなかったんです。きまって入会後は、条件や理想像がグッと跳ね上がるケースを多く見てきました。だから、マッチングして紹介してもうまくいかないし、当然成婚することもありません。
どうすればうまくいくのか、お客さまに満足していただけるのかを考えた結果、入会前から「その条件や理想像は本心からですか?」とズバリ、本音をきき出すやりかたをするようになりました。「どういう人を希望していて、どういう人だとイヤなのか。本当のところを言わなければ、あなたの理想とするお相手は紹介できませんよ」とこちらも正直に伝えます。
結婚相談所のオーナーをやるうえで大事なのは「お客さまの言葉でいかに本音を語ってもらうか」なんだと気づきました。そのためには私自身「話しやすい人」でいなければなりません。ですから、どんな言葉がきても批判も否定もしないと決めています。

オーダーメイドな婚活サービスを提供するために選択してもらう

Q. 大西さんに対し、結婚相手に求める条件や理想像を本音で伝えていても、運悪くなかなか「お付き合い」までいたらない方もいるのではないでしょうか。そういった方にはどうしていますか?

A. 女性の場合で説明しますね。起きているのはかかげる条件と男性とのミスマッチ。ひとことでいうと理想が高くなっている、ということですから「理想を高くかかげたまま婚活を続けるリスク」について説明するようにしています。
たとえば、アラフォー(40歳前後)の女性で「年収800万以上/一部上場企業のサラリーマン/同世代希望」とおっしゃる方がいたら、正直に「そういう男性は20代の女性や30代でも31〜32歳くらいの女性を選びます。まだ子どもをほしがる年齢のため、妊娠・出産する可能性の高い方を求めるからです」と率直にお伝えします。
さらに「このまま理想の条件を満たす人を待っていると、もう1〜2年要することも考えられるけれど、それでもよいでしょうか?」ときいて、ご自身で選択してもらいます。オーダーメイドの婚活を提供するためには、こまやかな意思確認が必要になるんです。

「すぐやる」が起業家としての強みになっている

Q. 運よくお付き合いが始まった後は、どのようなサポートをしていますか?

A. この先のお付き合いについてアドバイスします。お客さまのなかには異性との交際経験のない方もいらっしゃるので、丁寧にサポートをする必要があります。
「初回デートで連絡先を交換しただけだと、自然消滅しておしまいになるため、1日1往復のやりとりをしよう」「デートで行くお店は◯◯の基準で選んで、◯◯で予約しよう」「LINEやメールだけではなく2週間に1度は直接会いましょう。その頻度が無理なら電話をしましょう」など、お客さまにあわせた内容をお伝えしています。
大規模な結婚相談所ではお客さまひとりひとりに対し、異なるサポートを提供するのは難しいと思います。でも、うちのような小規模な結婚相談所で、オーナーの私ひとりがやっているとそういったサポートは可能です。
昔、勝手なことをしてバイトを辞めさせられていた私ですが、今はその「こうしたらいいのでは? と思ってすぐやる」性格が生きていると思います。バイトでは全然使えない人間でしたが、個人で仕事をするとき、その性格は強みになるんです。

家族との時間を大事にするために、かぎられた時間で効率よく仕事する

Q. 1日のスケジュール(の一例)を教えてください

A. 主人が出勤する朝10時までは仕事をしない、と決めています。主人から6時にたたき起こされ(笑)、犬の散歩・鳥の放鳥・花の水やり・家事・食事などをすませ、主人を送り出してから仕事開始です。
起床後すぐにお客さまからの報告メールを読むのが習慣になっているので、午前中にマッチングの業務をします。夜ってどうしても人の気分が下がってしまう時間帯のようで、落ち込んだメールをいただくこともあるんですよね。だから、早くつぎの方を紹介してやる気になっていただこう、元気を出してもらおう、と思うんです。
午後は近くの喫茶店でカウンセリングをするか、執筆業務をすると決めています。だいたい20時くらいには仕事を終えて、21時頃に帰宅する主人と自宅で食事をとります。
土日は極力仕事をいれず、日曜は完全オフと決めています。1回目の結婚のとき、土日も働いていて元夫とすれちがったにがい経験があるので、今度の結婚ではそうならないようにしようと(笑)。主人が帰宅したら仕事を中断し、夫婦の時間を大事にするよう意識しています。仕事も大事ですが、家族も大事ですからね。

著書『となりの婚活女子は、今日も迷走中』は自分を見つめ直せる本

Q. 最後に新刊『となりの婚活女子は、今日も迷走中』(かんき出版/大西明美)についてご紹介いただけますでしょうか。拝読したところ、具体的なエピソードが豊富でとてもおもしろかったです!

A. ありがとうございます! 「おもしろかったです!」とか「家族で読みました!」といった感想も届きましたね。家族で読んでいただくことは想定外でしたが(笑)。私自身、この本は冒頭で登場する婚活で悩んでいる女性に捧げるつもりで書いたつもりです。婚活をする過程で、彼女にもう少しラクになってもらえたら、と思っていました。
そういったターゲット層に近い読者さまからは「『私は◯◯女子のタイプだと思う』と自分がどのタイプなのか、問題意識をもつようになった」といった声もいただいています。人は意外と自分が思っているほど、自分のことを正しく見ていないですし、わかっていないんです。自分が悩むところと課題はべつにある、というか。そこのズレを整えたかったのがこの本です。ぜひ手にとっていただきご感想をお寄せいただけるとうれしいです!

▽ 大西明美(オオニシ アケミ)さん

婚活アドバイザー。結婚相談所を経営。1977年大阪府生まれ。東京都文京区在住。過去20年で延べ43,000件の恋愛を研究してきた婚活指導の第一人者。小中学校ではイジメを受け友だちがいなかったため、周囲の人間関係を観察することを目的にして登校を続ける。とくに恋愛に注目してコミュニケーションを学ぶ。高校生のとき、初めてできた友人に恋愛相談をもちかけられ、日頃きたえた人間観察眼を生かしたアドバイスを行い、無事に解決。それをきっかけに恋愛相談が立て続けに舞い込むようになる。婚活指導を通して、5年間で200組以上のカップルを成婚へと導いている。

ブログ:http://ameblo.jp/phlip1/

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2016.09.09

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記事を書いたのはこの人

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Written by 池田 園子(いけだ そのこ)

岡山県出身。中央大学法学部卒業後、楽天、リアルワールドを経てフリー編集者/ライターに。関心のあるテーマは女性の生き方や働き方、性、日本の家族制度など。結婚・離婚を一度経験。11月14日に『はたらく人の結婚しない生き方』を発売。 写真撮影ご協力:青山エリュシオンハウス 撮影者:福谷 真理子