「生感のあるインタビューを書きたくて」菅原さくら【園子の部屋#5】
編集者/ライターの池田園子が、そのときどきで気になる人、話を聞きたい人に会いにいく連載企画「園子の部屋」。第5回目はライター/編集者で、雑誌『走るひと』副編集長の菅原さくらさん。
「書く」仕事で幅広く活躍するさくらさんですが、私はさくらさんが書く女優・俳優のインタビュー記事が大好きです。そこには取材を受ける人の息遣いや微笑み方までもが、文章に落とし込まれていて、温度や湿度を感じられるから。
インタビュイーと向き合っている感覚に
池田: さくらさんのインタビュー記事が好きだし、どうしてこんなの生み出せるんだ~っていう悔しさみたいなのもあります。インタビューについてお話を聞きたいなと思って、今回来ていただきました!
さくら: うれしいです。ありがとうございます。
池田: 少し前にすごいなと感じたのが、松岡茉優さんのインタビュー(※1)です。「彼女はまだすこし、信じられないような面持ちで微笑む」とか「そこで言葉を一度区切ったかと思うと、次は息もつかずに。身体の奥のほうから言葉があふれ出たかのように、続ける」っていう文章を読んでいると、自分が松岡さんと対面している感覚になったんです。
さくら: 読んでくれた方が相手と会話している感覚になってくれたらいいな、と思って書いています。私自身もそういうインタビューが読みたいので。
池田: 何か影響を受けたインタビューってありますか?
さくら: 大学生になって読むようになった音楽誌のインタビューですかね。今思うと「テープ起こしにかなり忠実に書いてませんか?」ってくらい、取材を受ける側が私の目の前で喋っているようなインタビューなんです。
生っぽさは「表情・仕草メモ」から
池田: 一言で言うと「生っぽい」感じ。
さくら: そこに興味がありました。私は長年BUMP OF CHICKENが大好きで、インタビューを読みながら、「フジくん(藤原基央さん)って実はこんなふうに喋るんだ!」とニヤニヤしたことも(笑)。
池田: 話し言葉をできる限り忠実に再現し、かつ読み物として耐え得る形に編集するスキルがあってのことですよね。
さくら: そういう原稿を書きたい気持ちがあって、自分なりに試行錯誤してたどり着いた形式が、インタビュイーのひとり語り形式でもなければ、ライターとの掛け合いの一問一答形式でもなく、地の文(「」で表現される会話文以外の文章)を交えた形式なんですよね。
池田: 地の文でインタビュイーの表情や視線が丁寧に綴られていて、ああうまいな、よく見てるなと思うんですよ。どうやって再現しているんですか?
さくら: 気になった表情や仕草があれば、けっこう詳しくメモを取りますね。「これは必ず原稿に入れたい!」と思う表情や笑顔は記憶にも残っています。
身構えていない瞬間、素の言葉を引き出す
池田: 書いているとき、インタビュー時の映像が鮮やかに浮かんでいるんでしょうね。さくらさんのインタビューを見ると、そんな気がします。
さくら: 書きながら文章に引っ張られて浮かぶことはあります。私、小5から10年くらい、お芝居をしていたんです。
自分の映像を見ながら演技のフィードバックをもらうとき、「あそこで○○したほうが感情が伝わったかな」とか、映像の奥にある感情を考える経験は他の人より多くしてきたかなと思います。それが今の仕事に少し活きているのかもしれません。
池田: 岡田将生さんのインタビュー(※2)では冒頭で、「きゅっと口角の上がった笑顔がまぶしい。『でも笑顔はあんまり好きじゃないんです。って言っても、超笑ってますよね。いまも笑ってる』と、照れくさそうに微笑む」といった笑顔に関する表現がありました。あれもけっこう印象的な入りで。
さくら: 写真を撮る前にヘアメイクを直す時間がありますよね。そのタイミングで雑談をしたときに、岡田さんから返ってきた言葉を使いました。挨拶した瞬間やテープを回し始める前、撮影前後など、相手が身構えていない瞬間に引き出せた言葉を使うことも多いです。
池田: そこに貴重な「素の感じ」があるんでしょうね。
さくら: 撮影中に相手のイメージをメモすることもあります。青っぽい色だなとか凜とした花のような印象だな、とか漠然としたキーワードですけど。
言い換えの冒険を楽しむ
池田: インタビューの難しさって、どんなところにあると思いますか? たとえば私は、抽象的な言葉が出てきたとき、それをいかにいい感じに意訳して、わかりやすい表現に落とし込むか、頭を悩ませることがあります。
さくら: そういうことってありますよね。たとえば相手が「私にとって仕事は宇宙です」と言ったら、宇宙が指すのは「果てしない広がり」なのか「未知への恐怖」なのか、どういう意味なのか、できる限りインタビュー中に解決しようとします。
池田: 曖昧さがあるところ、本人にしかわからないところは、別の言葉での説明が欲しいですよね。
さくら: でも、ツッコミきれないときもある。そんなときは、前後の文脈やほかの言葉選びを基に自分のなかで考え抜いて、「この言葉を使って意訳しよう」と、けっこう思い切った冒険をすることもあります。
「あのときはうまく喋れなかったけど、これが言いたかったんです!」と、インタビュイーから言ってもらえると、ライターをやっていて良かったなと感じます。
池田: 黒子として言葉を扱うライター冥利に尽きますよね。本日はありがとうございました!
編集後記
今さくらさんがインタビューしたい人は? と聞くと、瞳がぱっと開いたように見えました。答えてくれたのは石原さとみさんや長澤まさみさん、新垣結衣さんなど、80年代後半生まれの女優さんたち。
「同じ時代を生きている、同年代でがんばっている女性たちに興味があります。子役時代、女優になる夢を持っていたこともありました。昔自分が目指していた分野で活躍する方たちに、純粋に興味があるし、仕事論を聞いてみたいです」
これから先、どんな生き生きとしたインタビュー原稿が生み出されるのか、いち菅原さくらファンとして楽しみでなりません。
▽ ゲスト/菅原さくら
1987年の早生まれ。ライター/編集者/雑誌『走るひと』副編集長。パーソナルなインタビューや対談を得意とし、タイアップ記事、企業PR支援、キャッチコピーなど、さまざまなものを書く。北海道出身の滋賀県育ちで、早稲田大学教育学部国語国文学科卒。2016年3月に男の子を出産。
アンケート エピソード募集中
▽ Twitter: @sakura011626
▽ (※1)松岡茉優さんインタビュー「まだ思春期を抜けたばかり。でも、誰かのためにお芝居がしたい」
(※2)岡田将生さんインタビュー「人と人とのバランスを楽しみながら、自分を知っていく」――自分らしさのヒント