【連載!】旬なハチロクに会いたい Vol.7 能政夕介さん

ライター/編集者の池田園子が同世代(86~87世代)の旬な人に「仕事の話」を伺う連載です。

フリーアナウンサーと聞くと、いわゆるテレビ局所属の「局アナを卒業」し、独立するケースを思い浮かべる人が多いのでは? そんな事例が大半ではありますが、一般企業を辞めてフリーアナウンサーとして活動するのが能政夕介さんです。並行してコミュニケーションを教える講師業も行い、オリジナリティのある仕事を創り出しています。
今回、能政さんに仕事の話を伺ってきました。

Vol.1はこちら


IT企業→友人と起業→フリーアナウンサーへ

質問

池田: 今どんな仕事をしていますか?

回答

能政夕介さん(以下能政): 大きく二つの事業を行っています。一つはフリーアナウンサーとしてスポーツ実況や結婚式の司会など、人に伝える仕事。
もう一つは、コミュニケーションのオンライン講座を開講し、講師として教える仕事です。今はアナウンサー事と講師業は7:3くらいの割合ですが、徐々にその割合を2:8くらいに逆転させていけたらなと思っています。

質問

池田: 起業したきっかけと経歴を簡単に教えてください。

回答

能政: もともと、伝えることが大好きで。アナウンサーに憧れる気持ちもあって、大学2回生から放送部に2年在籍していました。本格的にやっていたわけではないです。ただ、裏方のスタッフの思いをお客さんに伝える「橋渡し役」になれるアナウンサーの仕事は、本当に魅力的だと感じていました。うまく伝わって一体感の生まれる瞬間もたまらなくて。それを職業にしたいな、というのが最初の動機でした。

起業前は楽天に新卒入社して、編成や営業、メディアに関する仕事を4年続けたあと、友だち4人で起業し、半年ほど参画していました。同じ起業でも一人で会社を創るのは、まったく違いますね。一人ぼっちは楽な面もあるけどツラい(笑)と感じたことがあります。給料も人脈も実力も、すべてゼロからのスタートだったので。

相手に興味を持って、名前を呼ぶだけでいいコミュニケーションに

質問

池田: そんな中、どうやって仕事を増やしていきましたか? 心がけていることを教えてください。

回答

能政: 人とのコミュニケーションは大事にしています。僕、楽天時代に在籍していた最後の部署で上司から「おまえの唯一の武器はコミュニケーションだ」と言われたことがあるんです(笑)。特別に仕事ができるわけではなく、高い実績を残したわけでもない僕は「調整能力」を買われて、4年間で自分が希望する4つの部署をまわれたのだと思っています。

僕は同期も多く、幸いなことにいろいろな部署で経験を積めましたし、そこでは円滑なコミュニケーションをはかれていました。だから、社内で仲良くなった人にお願いすると助けてもらえましたし、僕も恩返しをしていました。上司は中途入社の人が多く「おまえはどれだけいろいろなとこに顔が利くんだ」と驚かれることが多かったんです。

当時から意識していることですが、相手の名前を呼ぶことは徹底しています。名前を呼んでから要件を伝えるんです。インタビュー時の鉄則だと思いますが、名前を何回も呼ぶと「この人と関係性を築けている」と、お互いの間に錯覚が生まれ、リラックスした雰囲気になるんです。
また、あたりまえですが、連絡をもらったら即レスし、お礼のメールも素早く送ります。

相手が話していたこと、相手の感情が動いたことをできるだけ覚えておいたり、相手の変化に気づいたりすることも意識はしています。決して押し付けがましくならないよう「あなたのことを見ていますよ」「覚えていますよ」と伝わるように。それを心がけると、相手は確実に喜んでくれて、よりよいコミュニケーションが生まれると思いますよ。

やりたいことは積極的に口にする!

能政: もう一つ、社会人になってからずっと心がけていることがあります。繰り返しになりますが、僕は楽天に4年いて、 4つの部署をまわりました。東京から大阪へ行き、また東京に戻り、また担当する事業もバラバラだったりと、そのときどきでやりたい仕事を、やりたい地域でやってきました。

僕のほかにも「異動したい」「他の部署に行きたい」と話している人は多くいましたが、なぜ僕が希望の部署に配属されたかというと、常に「自分はなにをやりたいか」を口にしていたからだと思っています。「いつか営業の仕事をやりたい」「地元・関西に帰りたい」「ソーシャルメディアの仕事に興味がある」など、すべて話していたんです。

上司というのは、部下が言ったことを意外としっかり覚えてくれているものです。僕もそう伝えていたから、引っ張ってくれたのかなと感じることはありました。思いきって声に出すことはとても大事です。目標や目的を決めて最初は紙に書く形でもいいので、自分の声で積極的に、人に伝えていくことが必要なのではないかと思います。

自分の仕事を振り返り、反省と改善を繰り返す日々

質問

池田: 仕事の流儀を教えてください。

回答

能政: アナウンサーの仕事をしたときは、あとで必ず自分のしゃべりを聞き返し、課題を見つけては都度つぶすよう試みることでしょうか。正直、経験を積んでいない自分の実況を聞き返すのは、つらいものがあります。

でも、引く手あまたな状況に至っていない未熟な僕は、自分のクセを見直したり、ほかのベテランの方の実況を聞いて良いところを真似したりしない限り、成長がとまってしまうと考えているんです。

そういう意味で、今の方が昔よりも緊張します。はじめて実況したとき、少し緊張はしましたが、この瞬間を僕自身が本気で楽しんでいる、という感覚があったんです。今はもちろん楽しく感じていますが、どう伝えるとこのスポーツがもっと魅力的に伝わるか、ゲストや解説が活きるか、編集しやすくなるか、といったことに目が向くようになったことが大きいでしょうね。

一人で活動するから健康管理は超重要

質問

池田: アナウンサーとして大事にしている生活習慣はなんですか?

回答

能政: 以前はバラバラでしたが、いつからか朝6~7時に起床して、7~8時には活動開始しようと心がけています。体が資本ですから、基本的に夜ふかしはしませんし、お酒もあまり飲まなくなりました。

自分の強みはフットワークの軽さだと思うんです。決して機会は多くないとは思いますが「今から2時間以内に現場に入れる?」といった依頼にも対応できる、万全な状態でいたい。だから、健康管理はすごく大事にしていますね。加湿器をセットして寝たり、マスクで風邪予防したり、バランスのいい食事をとったりと、基本的なところから気をつけています。

質問

池田: 独立して変わったことはありますか?

回答

能政: 自分を高めるための本を買ったり、セミナーに投資したりと、自己啓発に時間やお金を費やすようになりました。消耗品やブランド物などに浪費することが一切なくなりました。

良いのか悪いのかはわかりませんが、仕事用のスーツを除くと、新しい服がほしいとか、おしゃれをしたい、という「自分だけが幸せになる欲求」がなくなったんです。本もセミナーも自分のためのものですが、すべては「自分が学んで知識にすれば、ほかの人に還元できる」ものでもありますよね。

自分に最適な椅子を創りたい

質問

池田: 将来の展望を教えてください。

回答

能政: まずはしゃべり手として成熟して、地位を確立させていたいです。一般的にアナウンサーは「一つしかない椅子を争う」職業でもあります。ですが、僕は自分しか座れない椅子を創る人になりたいと思うんです。そのためにも、一つでいいから、自分がとびきり得意とするものを「入り口」として作らなければと思っています。

もう一つは教える側として、人にプラスの影響与える役割を果たしたい。起業して半年くらいは「伝える側の人間として活躍したい」と思っていました。でも、活動する中で、世の中にコミュニケーションに悩んでいる人は、僕も含めてたくさんいるなぁと気づいたんです。

だから、コミュニケーションの講座をはじめました。自信がなかったり、傷つきたくなかったりするせいで、空気を読んで本心を話せない人は本当に多いです。そういった枷になっているものをとり外してあげたら、それぞれの人生は変わってくると思います。そこをサポートする役目も果たしたいですね。

▽ 能政夕介(のせ ゆうすけ)さん

立命館大学産業社会学部卒。高校からはじめたアメリカンフットボール部を大学2回生時に退部。その後学内にある立命館大学放送局に入局。在学中に京セラドーム大阪や平安神宮にて司会を経験。2009年楽天(株)入社後、楽天市場事業内の営業・編成・マーケティングの事業に関わる。 2013年3月に退職し、4月から友人と京都にて(株)La Himawari創業。2013年11月にフリーアナウンサーとしてKotokakeを設立し、イベント・結婚式の司会からスポーツ実況、ラジオDJやナレーションなどを行う。 その傍らコミュニケーションに悩む方に向けてのオンライン講座やプライベートレッスンも実施。 企業向けには「クライアントや仲間に応援されるコミュニケーション術」やプレゼンテーション・スピーチ等の研修も実施。

Kotokake

2016.02.16

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記事を書いたのはこの人

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Written by 池田 園子(いけだ そのこ)

岡山県出身。中央大学法学部卒業後、楽天、リアルワールドを経てフリー編集者/ライターに。関心のあるテーマは女性の生き方や働き方、性、日本の家族制度など。結婚・離婚を一度経験。11月14日に『はたらく人の結婚しない生き方』を発売。 写真撮影ご協力:青山エリュシオンハウス 撮影者:福谷 真理子