顔はうさぎで身体は人間? 寒い冬がも~っと寒くなる! 怪談えほん『くうきにんげん』レビュー
気がつけばもう12月。少し前まで「暑いよ~!」と言いながらすごしていたのに、すっかり寒くなってしまいましたね。寒い冬は、温かいココアを飲みながら心がホッとする優しい物語を読むのもいいですよね。……しかし!
筆者は意地悪なので、今回は、寒い冬をも~っと寒くさせる怖い絵本を紹介します。あの『いるの いないの』などで有名な、岩崎書店の怪談えほんシリーズの最新作『くうきにんげん』(綾辻行人 作/牧野千穂 絵/東雅夫 編)です。一緒に身も心も寒くなりましょう。
くうきにんげんをしってるかい?
この絵本に描かれているのは、顔は「うさぎ」で身体は「人間」の、ランドセルを背負った子どもです。本書に登場するのは、みんな顔が馬や犬なので、普通の人間は誰一人として登場しません。そして、どうやらこの世には「くうきにんげん」という魔物がいるらしい、ということが説明されています。くうきにんげんは、誰も気がついていないけれど、世界中にたくさんいるそうです。空気みたいに軽くて、形も自由自在で、どこにでも入っていけるらしく……。
しかも恐ろしいことに、普通の人間に襲いかかって、空気に変えてしまう能力を持っているそうです。空気に変えられた人は目に見えなくなって、誰にも気づいてもらえなくなるようで……!?
目に見えない魔物の怖さとは?
この絵本は、顔はうさぎで身体は人間の子どもが、ランドセルを背負って誰もいないお家に帰っておやつを食べたりする普通の日常が描かれているだけなので、イラストだけ見ていると怖くはありません。しかし、語り手は読者に「くうきにんげんにさわられたらもうおしまいで、君は空気になって消えてしまうんだよ?」ということを、何度も執拗に伝えてきます。また、くうきにんげんは、必ず二人がかりで普通の人間を襲うらしいのですが、これ、大人の私がじっくり読むと、なにかを示唆しているようにも思えてくるのですね……。
一見“良い人”のフリをした“悪い人”って、いつの間にか人の心の隙間に、変幻自在に姿を変えて、そう、まるで空気のように入り込んでくることがありますよね。しかも、二人がかりでこられると、困惑しますよね……。だから「さわられたらもうおしまい」な「くうきにんげん」たちの手からは、どんなことがあっても、逃げなきゃいけないよ?
……本書はそんなメッセージを送っているのかなあ、と説教じみた大人に育った筆者は考えてしまいました。皆さんがどんな感想を持つのか気になります。良かったらこの冬ぜひ、読んでみてくださいね。