【連載!】旬なハチロクに会いたい Vol.3 北条かやさん

ライター/編集者の池田園子が同世代(86~87世代)の旬な人に「仕事の話」を伺う連載です。

5月に『整形した女は幸せになっているのか』というセンセーショナルなタイトルの本を出版したライターの北条かやさん。美容整形を社会学的な観点から考察し、多方面から話題をあつめています。本のほかにも、Webやテレビでたびたび見かける注目の書き手、北条さんと仕事の話をしてきました。


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Webと本、テレビ……どれも大切な仕事

質問

池田: 現在どんなお仕事をしていますか?

回答

北条かやさん(以下北条): おもにWebと本、テレビのお仕事があります。Webのお仕事だと、1日に2~3本、ニュース記事やコラムのシメ切りがあります。取材に行くこともあります。
あとは最近、あるオウンドメディアの編集に関わるようになったので、文章構成・編集の仕事も増えそうです。基本的には「北条かや」の署名入りで書きますが、なかには無署名の記事もあります。

北条: 本はWebの仕事を終えてから、先行研究を読んだり、実際に文章を書いたりと、1日のうち後半をあてることが多いですね。テレビは『モーニングCROSS』(TOKYO MX)などに月3~4回出演しています。割合的にはWebが4.5、本が4.5、テレビが1くらいですね。

6年間鍛えた「フィールドワーク」力が著書に生きている

質問

池田: 北条さんの本はどれも手もとに残しておきたくなる本なんです。本を書くときに大事にしている習慣はなんですか?

回答

北条: ありがとうございます! 大事にしていることは……大学・大学院時代で社会学を学ぶあいだに鍛えられた考え方です。自分が生きる社会の「意味」を深堀りする、そのために先行研究の蓄積を知る、フィールドワークをする、相対主義的だけど、自分にとって切実な問題を扱うこと、などなど……。6年間やってきたことなので、ある意味で逃れられないというか、大前提になっているのかなとも思いますが。

北条: 現場を見る、参加する「フィールドワーク」は、今も大切にしています。新刊『整形した女は幸せになっているのか』でも、論文や資料になる本、最新データをあつめたほか、複数の美容外科へ無料カウンセリングに行きました。今どんなニーズが多いかきいたり、どういうお客さんがきているのか雰囲気を知ったりと、実際に現場に足を運んではじめて見えてくること、わかることはたくさんあります。

次作のテーマは「身体」と「結婚」

質問

池田: 次はどんな作品を書く予定ですか?

回答

北条: 二冊同時並行で進んでいて、一冊は「身体」をテーマにした本です。処女作『キャバ嬢の社会学』を読んでくださった版元の編集長からお手紙をいただき、決定したお話です。

北条: こちらは今までの2冊とは違ってインタビュー取材はせず、自分の頭のなかにあるものを完全に出し切って書くものなので、新しい勝負になるかなと感じています。性に対する違和感に焦点をあてるという難しい題材なので、時間をかけてじっくりとり組むつもりです。

北条: もう1冊は「結婚」をテーマにした本で、こちらのほうが先に出る予定です。近年晩婚化が進み、『東京タラレバ娘』がヒットしているのを機に企画をいただきました。多くのメディアでは「結婚しない女性が増えている」「皆(相手にたいする)理想が高い」などと言っていますが、それが果たして事実なのかどうかも、本を通じて解きほぐせたらいいなと思っています。

ひとつひとつの仕事が星座のようにつながりを持ちはじめる

質問

池田: ライターという仕事の醍醐味はどんなところですか?

回答

北条: 以前は、ひとつひとつの仕事が「点」に見えるなぁと感じていました。線ではなくて点です。でも、経験を積んでいくうちに、点が星座みたいに見えるようになりました。

北条: 資料あつめや下調べ・取材・テープ起こしなど、ライターは文章を書く前にやることがたくさんあります。そうやって目の前の仕事を必死にやり続けていると、取材時にきいた発言や身につけた知識が、あとになって気づきになったり、別のお仕事につながったり……となることは少なくないんです。それこそがこの仕事のおもしろさ、すばらしさだと思います。

同世代の働く女性を取材した経験が転機に

質問

池田: ライターとして活動しはじめてから、ターニングポイントはありましたか?

回答

北条: ブログを見てオファーをくださった「AM」さんで「ブスとはなにか」というテーマで文章を書かせていただいたのが、ライター「北条かや」のはじまりだったと思います。それから、エコノミックニュースやBLOGOSなどでの執筆や、テレビやラジオのお仕事が入ってくるようになったんです。エコノミックニュースの記事が「Yahoo!ニュース」に連載されるようになると、ケタ違いに多くの方に読まれるようになって、身も心も引きしまる思いでした。そうして毎日ニュース記事を書くことで、鍛えられたと感じています。

北条: その後『キャバ嬢の社会学』を出版したところで、これまでの私の活動を見てくださった編集者の方が声をかけてくださり、KDDIさんのオウンドメディアで、営業女子のキャリアを考えるプロジェクト「新世代エイジョカレッジ(エイカレ)」(2014年6〜12月)を半年間にわたって取材するお仕事をいただいたんです。それが転機になりました。

北条: 同世代の働く女性を取材するのはワクワクしましたし、その過程で彼女たちがよりいっそうキャリアにたいして前向きになったり、変わっていったりするのを見て勇気づけられました。あのお仕事のおかげで、改めて自分の仕事人生について考えるきっかけをいただいたと思っています。

今欲しいのは離れて暮らす祖父母と過ごす時間

質問

池田: 仕事をするうえで犠牲にしていることはありますか?

回答

北条: 地元の石川を離れて暮らしはじめた大学時代から感じていることですが、祖父母とすごす時間ですね。母方の祖父は認知症の症状が進みつつありますが、父母方の祖父母4人とも70~80代で健在なんです。私は初孫ということもあって祖父母と距離が近く、美術館や文学館など、いろいろな場所へ連れて行ってもらった思い出があります。

北条: でも、大学、大学院、社会人……と大人になるにつれて、帰省できる頻度は減りましたし、あまり長く滞在できなくなってしまいました。1週間に何度か電話やメール、手紙を書く習慣はありますが、できるだけ直接会って話したいですね。

北条: 祖父母は昭和時代の生き証人ですから、本音としては近くで暮らして、私の知らないことをたくさん教えてもらいたいし、いろいろな話をしたいと思うんです。祖父母が体験した戦争の話も、たびたびきいてきましたが、もっときいて記憶にとどめたい。両親はまだ長生きするでしょうけれど、祖父母は次の10~20年も元気でいてくれるとは限らないので。

北条さんがすすめる「良仕事本」はこれ!

質問

池田: 最後に、働く同世代におすすめしたい本を3冊教えてください。

回答

北条: 悩みますね……まずは社会活動家の雨宮処凛さんのデビュー作、『生き地獄天国』でしょうか。75年生まれの彼女が、壮絶ないじめ体験を経て、「失われた20年」を生き、ときに右翼団体に惹かれつつ、自分と向きあう過程を描いた自叙伝です。労働に苦しさや生きづらさを感じているときに読むと、すっと入ってきます。2007年の文庫版には、プレカリアート問題にとり組む彼女の「その後」がつづられていますので、文庫版がおすすめです。

北条: 中村うさぎさんの『オヤジどもよ!』もいいですよ。さまざまな「オヤジ」たちを、バッサバッサと斬っていく。流れるような文章と、明晰な分析が痛快です。働くうえで、「オヤジ」的なるものと共存してきた女たちについて考えるきっかけにもなります。「オヤジ」の分析を通して、未来の働き方を考える――という内容のコラムもあって、男性が読んでもおもしろいと思います。

北条: 最近、大学の文系学部を改変する動きがありますよね。すぐに役立つ実学を重視し、昔ながらの「教養」を軽んじるような風潮も感じます。でも、ある程度の教養があった方が、労働人生は豊かになると思うのです。というわけで、小林秀雄著『考えるヒント』。「良心」という文章のなかに、次のような一節があります。「(現代の合理主義的風潮に乗っかっている人たちは)どうやら、能率的に考えることが、合理的に考えることだと思い違いをしているように思われる。当人は考えている積りだが、実は考える手間を省いている」のだと。

▽ 北条かや(ほうじょう かや)さん

ライター。専門は社会学やジェンダー論。同志社大学社会学部、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。「BLOGOS」「J-cast」「エコノミックニュース」など複数のメディアに社会系・経済系の記事を寄稿する。『モーニングCROSS』(TOKYO MX)、『新世代が解く!ニッポンのジレンマ』(NHK)などに出演。著書に『整形した女は幸せになっているのか』『キャバ嬢の社会学』がある。
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2015.09.07

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記事を書いたのはこの人

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Written by 池田 園子(いけだ そのこ)

岡山県出身。中央大学法学部卒業後、楽天、リアルワールドを経てフリー編集者/ライターに。関心のあるテーマは女性の生き方や働き方、性、日本の家族制度など。結婚・離婚を一度経験。11月14日に『はたらく人の結婚しない生き方』を発売。 写真撮影ご協力:青山エリュシオンハウス 撮影者:福谷 真理子