寂しくて眠れない夜に! 少し大人の恋愛長編『よるのふくらみ』はいかがですか?
人間は、心と身体がままならない生き物なのだろうな、と思います。
たとえば「絶対あの人を好きになったらダメだ……。不倫になる!」と思った人を好きになってしまったり、「あの人と結婚したら苦労するだろうな」と思った人と気がついたら結婚していたり――。頭ではわかっていても、心がおさえきれない生き物のようです。今回ご紹介したい本は、窪美澄さん作の『よるのふくらみ』(新潮社)という、大人向けの恋愛小説です。ままならない心と身体、そしてときに“欲”を持つ人間が出てくるのですが、眠れない夜に心が満たされるお話でもありました。“手に負えない”感情を抱えるすべての女子に読んでほしいです。少しだけ、内容をご紹介します。
『よるのふくらみ』(窪美澄/新潮社)
このお話は、排卵期で「あのう、私、今、欲情しておるのですが。あなたとセックスがしたくてたまらないのですが」と、保育士をしている29歳の「みひろ」が、同じ商店街で、幼いころから一緒に育ってきた「圭祐(けいすけ)」に心の中で語りかけるシーンからはじまります。
文房具店の娘「みひろ」は、酒屋の息子「圭祐」と結婚前提で同棲しているのですが、セックスレスのカップルです。一緒に暮らして2年になるのに、もうずっとセックスをしていない。子どもがほしいのか、ただセックスがしたいだけなのか……。自分の意思を無視して反応する身体をもてあまし、焦燥感でいっぱいの「みひろ」の前に、ずっと彼女のことが好きだった、圭祐の弟の「裕太」があらわれ、事態はさらにややこしくなっていきます。
満たされない思いはどこへ行く?
本書は連作短編集で、6つのお話が登場人物の視点を変えながら進められます。「性」というよりも、日常に密着したなまなましい「生」が描かれており、一見平和な小さな商店街の中で起こる、本音と建前と自己矛盾にあふれた世界観に、惹きつけられます。
「セックスは妊娠するために行うもの」と思い込む「圭祐」。そんな彼に惹かれ結婚を決意したものの「いんらんおんな」と呼ばれた自身の母親のことが頭から離れず、心も身体もままならない「みひろ」。そんな彼女に想いを寄せながら、別の女性に目を向ける「裕太」。
人間の情けない感情や衝動が、とてもリアルに描かれています。ですが、読み終わるとなぜか温かい気持ちになりました。本当に人間は時にどうしようもないのですが、それでも図太く、ヘヘッと笑って、心と身体が納まる着地点を見つけて生きていくしかないのだろうな、と前向きに思いました。よかったら、読んでみてくださいね。