【新連載!】旬なハチロクに会いたい Vol.1 朽木誠一郎さん
ライター/編集者の池田園子が同世代(86年生まれ)の旬な人に「仕事の話」を伺う新連載、2015年7月からスタートします!
「LIGブログ」編集長の朽木誠一郎さん。昨年9月の就任後、LIGブログをさらなる人気メディアへと押し上げた立役者の一人です。その傍ら書籍編集やライティング・編集・仕事術などをテーマにしたコラム執筆、ライター育成講座の講師など、多方面で活躍する朽木さんは枠にとらわれない「次世代型編集者」といえる人。そんな朽木さんと仕事の話をしてきました。
これからも編集の仕事だけは飽きないと思う
質問
池田:編集長として多くのメディアに登場され、華やかな印象が強い朽木さんですが、編集って裏方的な仕事のほうが多いですよね。表からは見えにくい業務だと、どんなことを担当されていますか?
回答
朽木誠一郎さん(以下朽木):悪目立ちすることが多くて恐縮なのですが、メインはLIGブログの編集業務です。LIGブログというとおもしろ系の記事の印象が強いと思うのですが、そちらは代表の吉原がずっとプロデュースしているのでお任せしていて、それ以外のまじめ系のすべての原稿のクオリティチェックをします。並行して企画や執筆、SNS運用、新しい編集部体制の構築、チームを組んでサイトの改善などもやっています。3月から広報戦略室と兼務しているので、まだまだ手探りですが広報業務もあります。さらに今後、コンテンツ制作の専門チームができるので、そこのメンバーへの教育もやっていくことになります。
朽木: こうしてお話しすると結構やることが多いように聞こえるのですが、ここまでが会社から任せてもらっている仕事です。僕は本来は飽きっぽい性格ですが、編集の仕事だけは楽しく続けられています。うちの会社は安定に入った途端に、高いハードルを用意するのが得意なので(笑)しんどいこともありますが、飽きる暇がないのかもしれませんね。
朽木: これとは別に退社後や休日の時間を利用して、書籍編集や他媒体への寄稿など、個人の仕事をしています。僕は誰かに師事して編集やライティングを勉強したことがあるわけではないので、とにかくあちこちのプロフェッショナルと一緒に仕事をさせてもらって、スキルアップをしたいと思っています。
スマホにたくさん通知が来ているので、起きたらすぐ仕事モード
質問
池田: 一日のうち、一番最初にする仕事は?
回答
朽木: スマホでのメールやメッセージのチェックです。まだまだ新卒二年目なので仕事の仕方も模索中で、ウェブ業界ってあらゆるツールで連絡が来るじゃないですか、起きてスマホを見るといろいろなアプリに通知がめちゃくちゃ届いている。放っておくとたまる一方なので、できるだけ返してから出勤します。こうするとすぐ仕事モードに切り替わります。会社に着く頃には、完全にスイッチがONになっているので。
朽木:こうやってマネジメントするようになったのは、弊社CFOに影響されていて。以前「10時始業の会社に9時55分に駆け込んでくる人間が、最初からトップスピードで仕事できると思う?」と言われ、反省したことがあったんです。その言葉はずっと頭に残ってますね。
「現状維持は停滞である」
質問
池田:他に上司から言われてハッとした言葉は?
回答
朽木: LIGブログのPVは右肩上がりだったんですが、成長率は一定でした。そのとき経営陣に「現状維持は停滞なんだよ」と言われたこと。その通りだし、まあすごく怒られたんですが、それ自体は良い言葉だなと受け止めたのを覚えています。
朽木: 確かに今は、他メディアが急速に力をつけていったり、新興メディアが続々と生まれたりしているので、成長していようが、決して油断はできない時代です。とはいえ、メディアを毎月110%ずつ成長させていくのも、結構苦労しているつもりなんですが(笑)。
子どものときから成果主義だった
質問
池田:どうしてそんなにストイックなんですか?
回答
朽木: そんなストイックでもないと思いますが……中高大と陸上の走る種目の選手でした。でも大学で主将になって、走る種目で上にはいけないと気づいたんです。それでも主将ですから結果を出したかった。そこで投擲選手に転向したんです。思い返すと、昔から成果主義だったかもしれません。
朽木: 医学部を受験したのも、今振り返ると成果主義だったから。中高と受験組でしたが、高校時代に勉強を放棄して、部活しかしなくなっちゃって。それでも親からは「医者か弁護士になれ」と言われ続けていて、そうならなくちゃという強迫観念みたいなものはありました。
だから部活の引退後に二浪して国立大学の医学部に入ったんです。自分と親、どちらの思いが強かったかはわかりませんが、医者になるのを目指して受験し続けてきたのに、医学部に入れずに終わるのは「負け」や「逃げ」だと捉えていたのかもしれません。
朽木: 今は大人になったのか、嫌なことからは逃げても良い、やりたいなら続ければ良い、とシンプルに考えられるようになりました。ただ、当時は結果だけが欲しかったんでしょう。言葉は悪いですが、もう医者になれるんだと思うと、次は昔から憧れていた物を書く仕事をやりたいなと、本気で思うようになったんですよね。
目指すのは市場の変化に柔軟な編集者
質問
池田:編集者として長く生き残るための戦略は?
回答
朽木:勉強しなければいけないことがたくさんあるのでまずはそこから始めつつ、でも僕は20年後も生き残っていたいという気持ちがすごく強くあるので。編集しかできないと、この先は生き延びていけないのかもしれないという危機感は持っています。編集という一分野だけやっていると、メディア業界のどこにどんな問題点があって、どこからお金が入ってきて、どこにアプローチしたら仕組みが変わるのか、といった全体像が見えないと思うんです。少なくとも業界に入ったばかりの頃の僕はそうでした。
朽木:なので、僕は狭義の編集業務だけではなく、メディア向けのコンサルティングやライター/編集者志願者の教育など、いろいろな仕事をやっていますし、これからも続けていくつもりです。一つだけできるようになって、そこに需要がなくなってしまったら、変化に耐えられなくなると思うので。
朽木:とくに今、メディアを取り巻く環境が目まぐるしく変化しています。「メディア(笑)」みたいな状況に、少なくとも僕のせいでするわけにはいかないと思っているので。メディア全般に関わり続けて、その世界を良くしていけるような取り組みをしていけたらと思っています。
▽ 朽木 誠一郎(くちき せいいちろう)さん
86世代の編集者/ライター/メディアコンサルタント。大学在学中にフリーライターとして活動を始め、卒業後は株式会社LIGに新卒入社。2014年9月には月間500万PVのオウンドメディア「LIGブログ」の編集長に就任。企画・編集・執筆を担当する傍ら、2015年3月より広報戦略室室長を兼務。サイドワークとして書籍編集やコラム執筆、講師などを行う。▽ Twitter: https://twitter.com/amanojerk