イケメンマーケティング男子Vol.2 加勇田雄介さん

20~30代のマーケティング男子を取り上げる本連載の第2回目は、スポーツウェアメーカー・デサントに勤める加勇田雄介さんが登場。2013年に「PCスーツ」という言葉を流行らせたり、既存のスポーツショップのイメージを覆す「デサント原宿店」B1階の立ち上げに携わった実績を持っています。そんな加勇田さんのお仕事について聞いてきました。

「“なぜ”を考え、突き詰めることで、お客さんへ新しい選択肢を提供したい」

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休日の加勇田雄介さん(27歳)

デサントに入社されたきっかけからお聞きしてもよいでしょうか。

新設の部署へ配属されると聞いて、入社することに決めました。「社内コンサル」みたいな立ち位置の部署で、集めてきたデータを読み解いて、弊社ブランドが持つ真の課題を抽出し、今後取り組んでいくべきことを提示するのが僕らの仕事です。やることが固定化されていなくて、新しい施策に挑戦しやすい環境だから、面白いことができそうだと思ったんです。逆にやることがルーチンワークのように決められていたら、入社しようとは思わなかったですね。

入社後、どんなマーケティング施策を展開してきましたか。

最初は「PCスーツ」こと、コンプレッションインナーSKINSの「RY400」という商品を広めるための施策を社内で提案しました。コンプレッションインナーというのは、適度な着圧を加えることで、トレーニングとパフォーマンスを向上させ、リカバリー(回復)をサポートするウェアのこと。弊社が取り扱うSKINSの価格帯は、一部の競合他社の商品より10,000円ほど高いのが特徴です。買い手からすると「その10,000円の差は何なんだ?」と疑問に思うでしょうし、ネット上でも「何が違うの?」といった質問を見かけることがありました。確かに見た目はどの商品も真っ黒で、他社商品との違いは、余程詳しく調べない限りわからないです。だから他社とは違った訴求もしなければならないと思っていました。

どのように展開することにしたのでしょうか。

そもそも商品特性上、余程現在使っている商品に不満が発生しない限り、ブランドスイッチが起こりづらい商品です。そして市場規模等から推定するに、マラソンで具体的な数値目標があるユーザーには行き渡っているのではないか。だとしたら、それまでと異なる層に訴求していく必要があるのではないか? と考えているときに、商品の理論を詳しく聞いたところ、アスリート以外にも使ってもらえるのではないかと気づいたんです。実は競合他社の商品とは違って、SKINSにはスポーツ時のウェアだけではなく、リカバリー専門のウェアが展開されています。だから、たとえば1日中座りっぱなしで仕事をしている人に、ガチガチになったカラダを回復させる目的で使ってもらえるのではないか、と思ったんです。そんなときにふと思い出したのが「PCメガネ」です。近年パソコンで長時間デスクワークをする人向けに、ブルーライトをカットして目への負担を少なくするメガネが流行っていますよね。それに関連して「PCスーツ」という言葉を思いついたんです。この「PC●●」の流れに乗って、デスクワーカーの方々にアピールできたらいいなと考えていました。

聞くと耳を離れない言葉ですよね。ネット上でもバズってました。

メディアの方々に注目していただいて、転載も含めて約60媒体に取り上げられましたね。正式商品名のRY400では、ここまで拡散されることはなかったと思います。みんなが話題にしやすい言葉を作って提示することで、話題にのぼりやすくなると思うんです。
既存の話題にのっかるという点では、「PCスーツ」施策の第2弾で実施したIT企業の福利厚生としてPCスーツを導入頂く施策も同様かと思います。当時IT企業は優秀なエンジニアを獲得したり、人材の流出を防ぐために、様々な福利厚生を打ち出し、ネットニュースでも話題になっていました。そこでIT企業各社に福利厚生として導入しないか提案をさせて頂き、その過程をネットニュースでご紹介を頂きました。

商品だけではなく、リアル店舗(デサント原宿店)の立ち上げにも関わっていらっしゃいますよね。

原宿という地に新店を開業することはもともと決まっていました。僕は「なぜ?」「どうして?」と尋ねまくる習慣があって、なぜ原宿を選んだのかと担当者に聞くと「若者が集まり、海外からのお客様も多い」「駅前で広告価値が高い」みたいな理由が挙げられ、疑問に感じたのを覚えています。どれもピンと来るものがなかったので。
週末にリアル脱出ゲームや高尾山登山を同僚や友人と楽しむような、スポーツをコミュニケーション手段と捉えている人達が若年層を中心に増えていて、その人達にとってみれば、スポーツをすることは居酒屋での飲みニケーションと、ある意味同列なわけです。
わざわざ若者が集まる街に出店し、彼等との接点を創出したいというのなら、そのコミュニティに応じたブランドの見せ方が、ある程度必要じゃないかと。いかがですか?

確かにそうですね。

ですよね。しかし、ごく普通のスポーツショップを作るというような計画で進められていたので、原宿という土地の特性、集まる人の特性をもっと活かさないともったいないなぁ……と感じたんです。そもそも原宿駅前なんてスポーツショップの激戦区ですしね。さらに、スポーツブランドの直営店って、ずっとブランドの商品を利用してくださっている方などを除いては、来店する理由の提供が難しいポジションだと思っています。スポーツチェーン店や専門店に比べて、価格も高ければ、他社ブランドとの比較もできず、選択肢が少ないですし。
それでもなお、既存顧客を狙うだけでなく、既存顧客を狙うだけでなく、スポーツにあまり馴染みのない人ともうっすらとつながっていくきっかけをつくっていかないと、弊社の認知度では絶対に限界がくると思っていました。

ということは、普通ではないスポーツショップを作ろう、と。

地下1階に書店+イベントスペースを設けました。お世話になっている方から、たまたまブックコーディネーターの内沼晋太郎さんを紹介いただいていたので、プロデュースは内沼さんにお願いしました。内沼さんには下北沢の書店「B&B」を立ち上げた実績があり、B&Bでは連日ユニークなイベントが展開され、書店として勢いを持っています。弊社の店舗でもそのノウハウを活かしていただきたいな、と思ったんです。思い返すと社内調整に苦戦したこともありましたが、アスリートではないお客さまにもふらりと立ち寄っていただけるような空間を作ることができたと思います。

いま現在、進めている施策についても教えてください。

1月17日に「燃え尽きランナー」に関するリリースを出しました。燃え尽きランナーとは、ランニングを始めて最初に頑張りすぎたせいで、いつの間にか気持ちが燃え尽きて、走るのをやめてしまう人のことを指します。弊社が行った調査では、ランナーの77%が1年以内にランニングをやめてしまっている、という実態が明らかになりました。また2日に1回以上走っているランナーは、半年以上継続できない人が70%近くを占め、一方で3~4日に1回など適度な頻度でランニングしている人は、40%以上が継続できていたんです。また、ランニングをやめたランナーのうち「カラダの疲れをとってくれるウェア」があれば再開のきっかけになると答えた方が21.8%いました。これらのデータを元に、燃え尽きランナーというワード、その背景、解決策を多くの人に知ってもらう活動を進めています。こちらもSKINS利用者の新規獲得を行うための施策です。そもそもランナー人口が2700万人を超えた現在において、既存のランナー、これからランニングを始める人を自社に取り込むのって、割に合わない。それなら、ランニングをしていたけれど、長続きしなかったランナーや、「燃え尽きランナー」予備軍のランナーを取り込んだ方がいいんじゃないかなと。

これもキャッチーなワードですね。

燃え尽きランナーだけではなく「燃え尽き●●」みたいな形で、ほかの分野・ジャンルにおいても派生するような言葉、他業種がコラボできそうなスペースを残した言葉というのは意識しています。
やはり事業会社ですから、話題になるだけでなく、最終的な売り場のことも考えないといけないです。そうした時に「燃え尽きランナーコーナー」みたいな売場ができるとよいのですが、1社の商品だけで、そういう売場でできるかと言われたら、それは否だと思います。やはり複数の商品・サービスが「燃え尽きランナー」のソリューションとして紹介されているほうがコーナーになりやすいのかなと。

次々と話題になる言葉を生み出す加勇田さんがしている「情報のインプット方法」について知りたいです。

たとえば数年前に登場した「草食男子」という言葉は、そこから「肉食男子」「ロールキャベツ男子」などさまざまな言葉が派生するきっかけを作りました。そういった「派生源」となる言葉を常に追いかけています。僕は雑誌を毎月5冊以上買うようにしているんですが、うち2冊は自分が好きなもの・興味を持ったもの、2冊は自分にはささらなかったもの、残り1冊は自由に選んでよいものと決めています。5冊ともある程度読み込むのですが、気になった言葉があればすべて、Twitterでその言葉がどういった語られ方をしているかを検索します。どんな人が語っているのか、その人はほかにどんな言葉に注目しているのかなど、個別のTwitter個人ページでチェックすることもありますよ。

雑誌を月5冊以上って、ウェブ系の人では珍しいですね。雑誌を買わない人は多いですから。

雑誌を読むと、FacebookやTwitterなどのソーシャルグラフ上では手に入らない情報を集めることができるんです。気になる言葉やその語られ方は、Evernoteに記録し後から見直して、仕事に活かしています。休日に雑誌や本、たまったウェブニュースを読むことが多いですが、休日は仕事に“遊び心”を取り入れるために投資する時間だと思って、オンオフの境なく楽しんでいます。

加勇田さんが仕事をする上で意識していることについても教えていただきたいです。

「そもそもなんで?」「どうして?」といった疑問系を多用することでしょうか。なぜなのかを考えることで、真の問題や課題が明らかになりますかなと。また、実際に施策を打つときには「欲張りすぎないこと」を意識していますね。僕は施策で実現したい目標を掲げるだけでなく、施策で実現不可能なこと、目指さないことを決めています。この施策であれもこれも実現したい…と思うと、どれも中途半端に終わってしまいます。そのほかには、言葉の定義を具体化することも大事だと思います。一口に「お客さまのニーズ」といっても、お客さまとは具体的に誰なのか、例えばスポーツを競技と捉える人達もいれば、先程のように居酒屋での飲みニケーションと、ある意味同列なわけです。どちらのお客様のための施策なのかで施策って全く異なると思います。

マーケターに向いている人の特徴を教えてください。

「なぜ」が考えられる人。たとえばイベントに参加して「このイベント楽しいなぁ」で終わってしまうと、完全に「仕掛けられる側」ですよね。でも「どうして楽しいのか」といった裏側を考えられると、仕掛ける側になれるんじゃないかなと。逆にいえば、そういったことを考えられると、未経験者でもOKな世界だと思います。ある意味平等な世界ですよね。

将来はどうしたいですか。

企業でマーケティングの仕事に携わっていたいです。マーケティングは人々の選択肢を増やす仕事。押しつけるようなやり方ではなく「こういうものもありますよ」と、お客さんへ新しい選択肢を示して、よりよいものを選ぶ手助けをし続けたいですね。

今回のイケメンマーケティング男子

加勇田 雄介(かゆだ ゆうすけ)
86年生まれのマーケティング男子。

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2014.02.05

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記事を書いたのはこの人

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Written by 池田 園子(いけだ そのこ)

岡山県出身。中央大学法学部卒業後、楽天、リアルワールドを経てフリー編集者/ライターに。関心のあるテーマは女性の生き方や働き方、性、日本の家族制度など。結婚・離婚を一度経験。11月14日に『はたらく人の結婚しない生き方』を発売。 写真撮影ご協力:青山エリュシオンハウス 撮影者:福谷 真理子