「働くイケメン男子Vol.8」 農家・吉岡龍一さん

ハーフのモデルのような整った外見にドキッとする。しかし彼はモデルではない。なんと最近注目を集めている「農業男子」の一人だ。柏に借りた畑で“先輩”とともに、野菜やお米を育てている。1年目の新米農業男子からお話を伺ってきた。


そもそも農業を始めようとしたきっかけは?

吉岡さん:学生時代に環境保全に興味があり、外部の活動に参加していました。3年生の頃に南インドで農村体験、4年生の頃は損保ジャパン環境財団のインターンを、茨城で1年間していました。具体的には環境にやさしいお米作りに取り組んでいました。メディアにも取り上げてもらいましたね。そうやって自然と深くふれ合っていたのですが、こんな自然の中で暮らしたいと強く思ったんです。自然に対するとヒトは無力なんです。その「何もできない感じ」が居心地良いというか。自然と関わる仕事をと考えたときに、面白いのは農業だなと直感で思ったんです。そこで新規就農を決めました。

実際に働き始めて感じていることは?

吉岡さん:何事も勉強だなと。自然から学ぶことはとても多いんです。種を植えて、芽が出て、大きな幹になって、実が付いてという成長に関する一連のこと、どれくらいの肥料があるか、虫が付いているかいないかなどは、自分の目で確かめるんです。,br/>いくら先輩たちからすごい知識を教わっても、自分で実践しないと意味がないんですね。自分で主体的に取り組まないと、勉強にならないということを実感しています。
どうして虫に食われるのか、といった理由は本に書いてありますが、自分の目で見ないとダメなんです。また農業って天候に左右されるんです。そういった価値観も斬新ですよね。自分じゃどうにもならない感じというか。自然に自分が左右されちゃうなんて、他の仕事にはないですよね。そこが逆に面白いなと。

どんな先輩たちと働いているんですか?

吉岡さん:60~70歳でも現役でバリバリ働いている方たちです。いつも笑顔で、とにかく陽気で、ステキな人たちなんです。でも、すごいんですよ。,br/>近年は異常気象だとかいって騒がれていますが、そんな中でも気象を読めちゃうんです。地面の様子を見て「風向き変わるぞ」とか。びっくりしてしまいます。お年寄りの知恵というのを、まざまざと見せつけられます。
そういった知恵は自然から学んだものだとか。でももったいないのは、やはり古い業界ということもあり、農業界全体として大先輩たちの知恵が共有されないこと。これほどリアルな勉強になるものもないと思うのですが……。
こういった知識を誰もが参照できる記事などにして、アーカイブにするのはとても役に立つのではないかと考え中です。

今後はどのような「農業男子」を目指していますか?

吉岡さん:その前に「農業をやる」と「農家」の違いを説明させて下さい。
僕は農業をやるじゃなくて、農家になりたい。実はこの二つは結構違っていて。「農業者=農作物をつくる人」で「農家=農作物をつくる人+代々家を構えて畑も田んぼも所有している人」というように、大きく意味合いが異なるんです。
農家はその地域に根ざして生活している人です。地域のお祭りや自治的な消防団など、地域のために何かしら働きかけて、コミュニティーデザインを仕掛ける存在ともいえます。必要となるのは農家で、僕は地域を盛り上げていく人になりたいと思っています。

「農業男子」がフォーカスされているとはいっても、まだまだ少ないイメージ。若い人に農業を広めていくためにはどうしたらいいと思いますか?

吉岡さん:「地域に生きること」の価値観に気付いてくれたら、すごく面白いことになると思うんです。あたたかい目が多いです。
農業に携わっていると、お年寄りが声をかけてくれて、応援してくれるんです。こんなに支援される仕事は他にありません。それでも一番の理想は、農家の息子が後を継ぐこと。やはり彼らの家には代々に渡って、蓄積してきたものがありますから。それでも最近はむしろ、農家の息子は普通にサラリーマンをしているというパターンが多いんですけどね……。中にいると気付けない良さというのもあるのでしょう。
彼らが農家の素晴らしさに気付いてほしいなと思います。外側からできることを仕掛けていきたいですね。

毎週火曜日に営業されている「農民バル」について詳しく教えて下さい。

吉岡さん:柏市内にあるカフェを、4月から毎週火曜の夜だけ貸してもらっています。僕はそこで柏市内で採れた美味しい野菜を選び抜いて、それを料理して提供しています。料理は昔から好きで結構していました。新鮮な野菜はとても美味しいんです。
たとえばエシャロットは本当は甘いとか、谷中生姜は収穫した瞬間には甘いとか。半日経ったら味が変わってしまうので、16~17時頃に収穫へ行き、18時半にオープンするというスケジュールにしています。こんなに美味しい野菜があるんだというのを、皆さんに知ってほしいです。

オンとオフの日の過ごし方を教えて下さい

吉岡さん:オンの日は朝6時から日が沈むまで、コツコツと農作業をしています。あまり人と接することなく、ひたすら自然と接っしています。そうやって普段はあまり話さない分、オフは結構話します。口は逆にオンみたいな(笑)。とはいってもあまりオフの日はなく、先月の完全オフは月に2~3日でしたが……。農民バルを開く火曜の過ごし方はいつもと少し違っていて、朝5時から午前いっぱい働き、家で昼寝、午後に仕込み、16時くらいに畑へ行き野菜を採ってきます。営業はお客さんが帰るまでですね。今は通勤時間が自転車で3分と近く、仕事もびっくりするくらい楽しいことばかりです。ストレスが一切貯まらない生活なんです。

1年後はどうしていると思いますか?

吉岡さん:どんな仕事も日々勉強。これは共通していますよね。でも1年に1回しか勉強できないのが農業なんです。たとえばホウレンソウなんかでも2作3作できません。20~30年続けることでようやく分かってくるというか。
また地域によって作り方が全然違うことも。柏で上手く作っても、他では同じやり方だと上手くいかないかも知れません。地域にあった作り方というのがありますから。僕が1人前になれた頃はきっとおじさんになっていると思います(笑)。1年では何も語れないと思っています。

趣味は何ですか?

吉岡さん:昔からサッカーです。でも11人でサッカーするのが、だんだん疲れるようになりましたね……。だから最近はもっぱらフットサルをやっています。サークルに入っているのですが、チームにいる小さな子に点を入れさせようとか、ゆるーいかたちで取り組んでいます。

自信を持って扱える道具は何ですか?

吉岡さん:仕事柄、鍬ですね。最終的には自分の手でやるんですが。農機具って危険を伴う道具なんです。それに自然の状態を感じるためには、自分の手でやるのが一番なのかなと。

恋愛の話もサクッと聞いちゃいます。本命に選ぶ女子はどんな人?

吉岡さん:僕はあまり好きなタイプとかはないんですよ。強いていえば、どんな状況でも楽しもうとする人ですね。旅行中に渋滞やトラブルに巻き込まれても、それを前向きに楽しむような人が好きです。

農業へ従事したい若者へ一言お願いします

吉岡さん:農業って初期投資が結構かかるんですね。これまでの生活をぽんっとすべて捨てるのは難しいです。農業生産法人とか企業の採用を受けて、お給料をもらいながら勉強して、最終的に農家になるというコースがオススメです。それから入り込む地域を決めましょう。
いいかたちで地域の人たちの中へ入り込めば、指導してもらうこともできます。いきなり自分ひとりでやるとなると難しいかなと。
でも一番いいのは地元です。やりやすさはナンバーワンなのかと。お酒がキーになりますよ。一升瓶を抱えて挨拶に行けば、確実に飲みながら仲良くなれます(笑)。機械も貸してやるよと言われることも。自分の孫かのように背中を押してくれたり、バックアップしてくれます。「野菜持っていけよ」とか「お歳暮でハムもらったから持っていけよ」とか、とても親切なんですよね。自然体で陽気でいれば、地元のお年寄りと仲良くなれます。大事なのは地域に溶け込むこと。その土地のことは地域の人が一番知っていますから。

吉岡龍一
88年生まれ、千葉出身。ブログTwitter
グリーンやサステナビリティをテーマにした飲み会「green drinks kashiwa

ライター:池田園子

2012.08.01

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記事を書いたのはこの人

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Written by 池田 園子(いけだ そのこ)

岡山県出身。中央大学法学部卒業後、楽天、リアルワールドを経てフリー編集者/ライターに。関心のあるテーマは女性の生き方や働き方、性、日本の家族制度など。結婚・離婚を一度経験。11月14日に『はたらく人の結婚しない生き方』を発売。 写真撮影ご協力:青山エリュシオンハウス 撮影者:福谷 真理子