sex研究部Vol.12 作家 衿野未矢さん

まわりの人にはなんとなくききづらい、女性の性やセックスに関するテーマ。大事な話ですがネットで調べてすませていませんか?
専門家の話からセックスをひもとく連載の第12回に登場していただくのは、女性のライフスタイルをテーマにした作品を数多く発表している作家の衿野未矢さん。今回はセックスレスをテーマにお話をうかがいました。


社会の変化がセックスレスに結びついている

3年前に『セックスレスな女たち』という本を出版しました。2000年頃から依存症や不倫をテーマに多くのご夫婦を取材する過程で、依存症や不倫の背景にセックスレスがあると気づいたのが、本を書こうと決めたきっかけです。

取材対象者に「ご夫婦間で何がどううまくいっていないんですか?」と尋ねると、セックスレス自体が一般化していないときから「もう長年夫婦生活がない」とか「妻とは家族だからセックスはできない」といった言葉が返ってきてハッとしました。
依存症に不倫、セックスレス――三者に共通しているのは、これらが極めて個人的な問題のようでありながら、本人の意志や努力とは別の次元で動いている社会的な変化が背景にあるということ。それでも結果を背負うのは当事者一人ひとりです。

たとえば、買い物依存症の人が増えた背景には、クレジットカードやネットショッピングの普及があげられます。昔と比べて買い物が非常に便利になったという、社会の大きな変化が密接に関係しています。
セックスレスも同じです。なぜそうなったのかをきくと「家が狭くて音が筒抜けだから」とか「長時間通勤で疲れ切ってそれどころではないから」など、社会の変化はセックスレスの問題とは切り離せないものになっているのです。

結婚するとセックスの優先順位が下がる理由

それでも結婚前は誰もが愛し合っていたはずですし、多くの人はセックスをしていたはずなのに――と思うこともありましたが、私自身も49歳で結婚してから、夫婦の間で「セックスの優先順位が下がっていく状況」を自分ごととして理解しました。

夫婦二人と同居する義父の三人暮らしで、シンプルな家庭生活だと思います。それでも夫婦間で共有したり、意思決定したりしないといけないことは山ほどあります。◯◯さんの法事には誰が参加するか、◯◯さんの結婚式のご祝儀はいくらにするか、台所の水道の調子が悪いから見てほしい、押入にある◯◯を処分してもいいかなど、毎日「すぐに解決しなければならない問題」だらけ。さらに最近は女性だけではなく、夫婦で力を合わせて育児をする時代なので、子どもを持つ家庭であれば、共有・決定しなければならない事項はさらにたくさんあるでしょう。

一方で性に関する要望の緊急性はなく、しなくても生きていけることなので優先順位がどんどん下がっていくのです。愛し合う二人の関係性においてセックスは絆の一つですが、ほかの絆がたくさん増えてしまってそれらに埋もれてしまいがち。そんな要因もあって今後もセックスレス夫婦は増えていくのではと思います。
ただ、夫婦や男女のあり方は多様化している流れがあり、「夫婦だからセックスをしなければ」といったプレッシャーもなくなりつつあります。二人の間でセックスがなくなる=愛情も消えるというわけではありません。セックスレスでも仲がいい夫婦も増えていくのではないでしょうか。

とはいえ、男女のコミュニケーションツールとして、最も濃密で最も大きな存在がセックスです。それを100%捨て去るのはもったいない気がします。できることなら、ずっと大事に持ち続けていたほうが幸せだと思いますね。

「あなたに関心があるよ」その気持ちを行動で伝えよう

取材を重ねるうちに、セックスレスを予防したり改善したりするには“相手に関心を持つこと”“それを行動で示すこと”のふたつが必要だと気づきました。相手に関心を持つ=相手のことをよく見て、何を考えているか、何をすると喜ぶかを敏感にキャッチすること。お互いに対して無頓着になっていると、関係性も薄まっていくばかりです。

たとえば我が家では夫が平日は東京で単身赴任をしているので、週に1度、地元・新潟から送り出すときにお弁当を作っています。その際、手書きでメッセージを添えます。内容は「また1週間が始まりましたね。今日は鮭のおむすびですよ。お気をつけて行ってらっしゃい(ハートマーク)」といった、本当に簡単なもの(笑)。
恋人だった頃は、誕生日やバレンタインデーなどの特別な日にメッセージカードを書いていた人は多いのでは? その延長線上のようなもので、ほんの一言でも効果があります。もし前日に「明日は会議がある」と聞いていたら「会議おつかれさま」と添えることができますよね。メッセージカードを習慣化すると、相手により関心を持てるようになります。

そうやって「私はあなたを見ています」「あなたに関心があります」と態度で示していると、相手の反応もよくなります。夫は普段あまり家事をしない人ですが、私が朝食の支度をしていると、冷蔵庫からジャムを出して並べてくれるようになりました。気がついたときに洗い物もやってくれます。自分が相手を見ていると、逆に相手も自分を見てくれるようになるんです。

自分イメチェンよりも食卓イメチェンを

「セックスレス解消にはマンネリをなんとかしないと」と考えて、ヘアスタイルやファッションを変えてイメチェンをはかる女性は少なくありません。確かに新鮮さを手に入れるには、見た目を変えようという発想が生まれるのもわかりますが、意外と相手に気づかれずに終わることも……。

そこで、自分の外見を変えるよりは「食卓」に目を向けてみてはどうでしょうか。毎日必ず囲む食卓で、テーブルクロスをこまめにかえると確実にリフレッシュできますよ。私は安いハギレ布をまとめ買いしておいて、定期的にクロスを替えています。クロスは面積も大きく、必ず目に入ってくるものなので、相手の視覚に訴えることができるんです。
もちろんクロスでなくても、食器や箸置きなどを替えてみるのもあり。あなたと一緒に食事を楽しみたい、という前向きな気持ちが伝わるはずです。そんな気持ちになるのは、相手に関心を持っているからこそ。

あわせて、相手と対面で向き合い、視線を絡ませるコミュニケーションも大切にしてほしいと思います。夫婦は互いに向き合うよりも、隣に並んで何かを一緒にすることがどうしても多くなりますから。より深くコミュニケーションをはかれるようになるはずです。

うまくいかないときも自分を責めないでほしい

恋人との関係性で悩む方や、恋人がなかなかできないと悩む方は少なくないと思います。セックスレスや不倫、依存症と同じく、恋愛における悩みの背景にも社会の大きな変化が関係しているケースが多いです。
私に魅力がないからだとか、恋愛がうまくいかないから仕事もうまくいかないなど、一人で問題を抱え込んで自分を責めないようにしてください。たとえ悩んでいても、その経験は必ず次のステップに生きてくるはずですから。

衿野未矢さん

1963年静岡生まれ。立命館大学卒業後、マンガ誌の編集者を経て独立。買物依存症や不倫、セックスレスなど、女性のライフスタイルをテーマに幅広く執筆活動を行う他、専門学校で講師業も。『セックスレスな女たち』『“48歳、彼氏ナシ” 私でも嫁に行けた! オトナ婚をつかみとる50の法則』など著書多数。

2015.06.07

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記事を書いたのはこの人

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Written by 池田 園子(いけだ そのこ)

岡山県出身。中央大学法学部卒業後、楽天、リアルワールドを経てフリー編集者/ライターに。関心のあるテーマは女性の生き方や働き方、性、日本の家族制度など。結婚・離婚を一度経験。11月14日に『はたらく人の結婚しない生き方』を発売。 写真撮影ご協力:青山エリュシオンハウス 撮影者:福谷 真理子