わたしらしい起業のかたち Vol.11 施術家 西川らむさん~それでも美容業界で働きたい。ひとつひとつの経験が自分の糧に~
編集者/ライターの池田園子が、週末起業家や個人事業主、経営者など、さまざまなスタイルで起業している女性にインタビューする連載です。
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マッサージをはじめとするボディ・フェイスのトリートメントを受けるひとときは、私たちの心身を癒やし、和らげ、ほっとさせてくれる極上の時間。皆さんにも通っているサロン、気に入っているサロンが1~2店はあるのではないでしょうか。
栃木県下野市に一軒のサロンがあります。オーナーは西川らむさん。施術家として、ハワイアンロミロミやホットストーンセラピー、エステティックフェイシャル、リフレクソロジーなど、さまざまな施術を提供しています。
「自身の病気の養生のため、美容業界を離れた時期もありましたが、尊敬する師匠に再度お声をかけていただく機会に恵まれ、この世界に戻ってきました。お客様の体に触れていると、ご本人でも気づかなかった発見をさせていただいたり、お客様自身から発せられる生きる喜び、生命力を感じたりします。施術家として喜びを感じる瞬間のひとつです」
大切な人をハグするような温かい時間を過ごしていただきたい――そんなモットーを掲げる西川さんのサロンは、地域で愛されるほっとする空間。ここからは西川さんの起業ストーリーを見てみましょう。
人肌に触れながらコミュニケーションを図るのが得意だった
Q. 施術家になろうと決めたきっかけはなんでしたか?
A. 元から「施術家になりたい!」という強い意思があったわけではなく、自然と辿り着いたように感じています。私は言葉でのコミュニケーションが得意なほうではないため、不器用な自分をうまく表現できる方法をずっと探していました。
その結果わかったのが、人肌に触れながら相手と交流を図るというのが、私が得意とするコミュニケーション方法で、それが施術でもある、ということなのだと思います。
小学生のころ、父に肩たたきをして「マッサージ上手だね~!」と褒められて嬉しかったのが、今でも記憶に残っているので、そのことも施術家になったきっかけのひとつかもしれません(笑)。
父は覚えていないと思いますが、私の人生に大きな影響を与える一言でしたし、今の私を作ってくれているなあと思います。
それでも美容業界で働きたい……美容師から施術家へ方向転換
Q. サロンをオープンされるまでのご経歴は?
A. 勉強が好きではなくて「学校を卒業したらすぐにでも働きたい!」「大人の世界を知りたい!」という好奇心で、高校在学中から美容学校の通信科に入って、仕事につながる学びを得ていました。
その後は、高校卒業と同時に美容師見習いとなり、美容師の国家資格も取得。薬剤による手荒れに悩み、美容師は辞めることになりましたが、それでも人と触れ合う仕事がしたい・美容に関わる仕事がしたい、という思いは捨てきれずに、スクールに入学したんです。
卒業後はリラクセーションサロンやエステサロン、治療院などで働いてきました。振り返ると転職回数は人よりも多いかもしれませんが、ひとつひとつの経験が自分の糧になっていると思います。
自らの闘病を経て「ゼロの状態から挑戦したい」と独立
Q. その後、施術家として独立に到ったターニングポイントはなんでしたか?
A. 一番大きいターニングポイントは、私自身が病気になったことだと思います。病気の経験を通じて、健康であることの大切さや、まわりの人に支えられている感謝を心の底から味わいました。
今こうして生きている一瞬一瞬を丁寧に過ごしたい。自分というものをしっかり表現しながら生きたい。そんなふうに強く願い、人生は一度きりなのだから、ゼロの状態から挑戦してみたいと思い立ったんです。
それまでは「いつか独立できたらいいなあ」くらいのふわふわした夢だったので、とくになにも準備していませんでした。でも、思い立ったが吉日! ということで、すぐに物件をいくつか内見し、現在の一軒家に即決しました。
お客様一人ひとりと丁寧に向き合え、人生に寄り添えることが喜びに
Q. サロンオーナーとして、そして施術家として活動するなかで、どんなときに喜びややりがいを感じますか?
A. ひとりでサロンを運営していることもあり、お客様一人ひとりと丁寧にじっくりお付き合いできることが、私にとって大きな喜びになっています。ほかのお客様を気にすることなく、ご自身だけの時間をお過ごしいただけるので、深いお話を打ち明けてくださる方も多くいらっしゃいます。
最初はお肌の悩みやお体の不安で来店してくださっていたのが「お話しするのが楽しくてマメにきちゃう!」と言っていただけるのも、本当にありがたいことです。
また、長いお付き合いをしていくなかで、お客様の人生の節目や変化のときに立ち会えるのも感慨深く、この仕事をやっていてよかったなあと思える瞬間です。
さらに、いいこともよくないこともすべて、自分の成長の材料になるんだと知ることもできました。まわりの方、関わるすべての方たちへ、感謝の気持ちしかない日々です。
最初はうまくいかなくても「続けること」が独立成功のカギ
Q. 独立してひとりで事業をするは気楽な反面、大変なこともひとりで立ち向かわねばなりません。試練をどう乗り越えてきましたか?
A. 勢いと情熱だけで独立したようなものなので、やはり大変なことはありました。いわゆるコネや人脈はもちろん、お金もない。ないものばかり(笑)。
そのぶん、ゼロの状態からチャレンジする覚悟だけはあったので「最初はうまくいかなくても、次の機会に成功に変えればいい」という思いで進んでいきました。1日にひとりでも、お客様がきてくださったら万々歳、という感じで。
うまくいかないやり方をたくさん経験したおかげで、うまくいくやり方が感覚でわかってきたように思います。うまくいったときの手応えを忘れずに、細かく分析していく――その積み重ねのおかげで、私の内面は相当に鍛えられたと思っています。
また、なによりも継続は力なりだと感じます。やり続けることが信頼と実績につながるんです。悔しくても、なかなか成果が出なくても、誰に喜ばれずとも、自分のために淡々とやる。独立する人にはそんな覚悟が必要なのではないでしょうか。
施術+センシュアルフォトのサービスも提供開始
Q. 施術家の活動と並行して、ランジェリーを身に着けた女性を美しく撮影する「センシュアルフォト」のサービスも展開されるようになりました。このセンシュアルフォトについても教えてください
A. センシュアルフォトのサービスを本格的に始めたのは2016年4月です。もともと艶っぽい人や官能的な人が好きなんです。それもあって、サロンにきてくださるお客様のランジェリー姿のお写真を施術が終わったあと、セクシーかつおしゃれに撮影させていただく機会はありました。
あくまで「撮影ごっこ」「モデルごっこ」のような遊び感覚で、モデルさんのような素敵なポーズをとってもらうなど、ゆるい雰囲気でやっていました。
そんな活動を遊び感覚で続けるうちに、ご自身の写真を見たお客様から「私のボディラインってこんなにきれいだったの?」などと、喜んでいただけたり、感動していただいたりする機会が増えて……。
施術後のお客様の表情は、施術前と比べると緩んでいて、艶っぽくてとても美しいんです。そんな表情はもちろん、ご自身の女性としての美しさ、艶っぽさを、一人ひとりの方に知ってほしいな、という思いもありました。
やがてこの取り組みが口コミで広まり、本格的にスタートした次第です。今は北は北海道、南は沖縄からセンシュアルフォトのサービスを希望して、お客様がいらっしゃるようになりました(出張撮影もあり)。基本的には最初に指圧やホットストーンなどで1時間~施術し、体をやわらかくほぐしてから、撮影タイムに入るようにしています。
背中をさする、ハグ……ちょっとした肌の触れ合いで心が温まることを伝えていきたい
Q. 最後に、この先実現したいことを教えてください
A. 地域の皆さんにいつでも思い出してもらえるような、誰でも気軽に立ち寄ることができて、安心感を得られる地元密着型のサロン、空間でありたいです。
機会があれば、人に教える活動もしていきたいです。肌と肌の触れ合いはコミュニケーションのひとつとして、もっともっと積極的に行われるといいなと思っているんです。背中をさすったり、抱きしめたり……そんな些細な動作でも人肌の温度は、固まってしまった気持ちを溶かしてくれますから。
ちょっとした肌のふれあいで人は安心感を取り戻せること、大切な人とはとくに肌の触れ合いを通じたコミュニケーションを大事にしてほしいことなども、発信していきたいです。
▽ 西川 らむ(にしかわ らむ)さん
高校卒業後、美容室で2年間働きながら美容師免許を取得。その後、タッチセラピーでのコミュニケーションに興味を惹かれ、ボディワークの世界へ入る。アロマトリートメントサロン、エステティックサロンで約4年間勤務。ハワイアンロミロミを中心に、美容全般に脱毛や痩身、フェイシャルの施術など、幅広く担当。栃木県下野市に一軒家スタイルのプライベートサロン「humuhumu」をオープンし、施術家として活動中。
勉強してきた施術は以下。
美容師2年間・エステティックサロン、アロマサロン、整体など7年間
ブライダルフラワー3年間・ハワイアンロミロミ(RAJA)
ホットストーンセラピー・エステティックフェイシャル
リフレクソロジー・アロマセラピー
臼井式レイキ・美容師免許取得
▽ プライベートサロン「humuhumu」
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