わたしらしい起業のかたち Vol.2 アクセサリーデザイナー/料理教室主宰 柳田薫さん

編集者/ライターの池田園子が、週末起業家や個人事業主、経営者など、さまざまなスタイルで起業している女性にインタビューする連載です。

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起業にいたる理由や背景は人それぞれ。妊娠や出産などのライフステージの変化に伴い、「会社で働く」スタイルが合わなくなって、自ら事業をおこす選択をする女性もいます。オーダーメイドのヘッドドレスやピアスなどのアクセサリーを販売するほか、料理教室も主宰する柳田薫さんもそのひとり。現在、ふたりのお子さんをもつママです。

「幼いころ、まわりにカッコいいと思える大人がいませんでした。だから大人になりたくなかった。でも私は子どもたちに『ママの生き方ってカッコいい!』とか『大人になるって楽しそうだな』と思ってもらいたい。だから、母親になってしばらくは子ども中心の生活になっても、好きなことを仕事としてやり続けたかったんです」

そんな柳田さんの起業ストーリーをのぞいてみましょう。


つわりがしんどくて働き続けられない――退職を決めた

Q. 起業に至った経緯を教えてください

A. 広告代理店に勤めていたとき、第一子を妊娠しました。そのとき、つわりがひどくて、このまま働き続けられない……と思い、退職したんです。
1社目の広告制作会社とあわせて丸5年、多忙なときは朝方まで働いて仮眠をとって出社するような、ハードながらも学びの多い職場にいたので、辞めるときに迷いや心残りはありませんでした。積み重ねてきた経験を糧にして、自分でなにか仕事をつくりだしたい、という思いが強かったですね。
退職後は時間に余裕ができたので、子どもが生まれてからの生活にフィットすることをやろうと、もともと好きだったものづくりに挑戦することにしました。

自分の結婚式に、理想どおりのヘッドドレスをつくった

Q. どうしてヘッドドレスをつくることにしたんですか?

A. きっかけは自分の結婚式です。お色直しで着物を着ようと決めて、「ヘッドドレスには紫のお花をつけたい」とオーダーしたところ、特注する必要が出てきて、見積りを見ると5万円くらいしたんです。そこまで高くなくてもつくれるでしょ? とびっくりしました(笑)。
私は好きなものがなければ自分でつくればいい、と考えるタイプなんです。式場に相談したところ、持ち込みOKと言われ、自分でつくることにしました。その過程で、自分がイメージしたようなヘッドドレスがなく、特注すると高額になってしまう……といった悩みを持つのは、私だけではないだろうと思ったんです。
それを機にヘッドドレスをつくりはじめました。最初は通っていた美容室に相談して、制作したものをいくつか置かせてもらって。結婚式や二次会に行くさい、ヘアのセットアップにくるお客さまに使ってもらっていました。美容室からは人気の色やデザインをフィードバックしてもらい、新作づくりにいかしていましたね。

お客さまから求められる以上の完成度を目指す

Q. ご自身が運営するアクセサリーショップ「VIOLUKA」では、オーダーメイドも積極的に受け付けています。オーダーメイドの注文が入ったときに心がけていることはなんですか?

A. あたりまえのことだと思いますが、求められる以上の成果を出すことです。たとえば、お客さまから「◯◯のようなデザインで……」と希望をお送りいただいたら、それも素敵ですがこちらもどうでしょうか、と私から3案ほど提示しています。お客さまが知人であれば、普段着ている服や身につけているものから、私という第三者が見て似合うものを思い浮かべますが、はじめての方だと「このドレスに合わせたいんです」といった手がかりから、それに合うものを考え、実際にそのアクセサリーを身につけている姿や雰囲気を想像したうえで提案します。
オーダーメイドと既存商品の注文の割合は半々ほどです。オーダーメイドの楽しさは一度体験していただきたいですね。既存商品に自分の好みを完璧に満たしたものがなくても、オーダーメイドすれば自分が一番好きなものが手に入る。その特別感を味わっていただきたいと思い、どういう形でもいいのでご要望を聞かせてください、とショップでていねいなご案内をするよう意識しています。

自分が学んできたものを妊婦さん、新米ママに伝えたい

Q. アクセサリーショップをつくったあと、マクロビオティックをとり入れた料理教室を主宰するようになったきっかけはなんでしたか?

A. じつは当初、料理教室をやるつもりはなかったんです。マクロビを知ったのは、ちょうど3.11から間もないころ。体に入ってくるものは仕方がないので、どれだけ出せる身体をつくるかが大事だと考えているうちに、たどり着いたんです。自分とお腹にいる子どものために、いらないものと本当に必要なものが知りたい、と思い勉強しはじめました。学べば学ぶほど、その奥深さに魅了されましたね。
独学で学び続けていると、ママ友からいろいろと聞かれるようになっていました。学びを深めていくうちに、自分のなかで体系を立てられるようにもなり、マクロビを知りたい人がたくさんいると気づいたんです。引っ越していまの家に暮らすようになって、2015年7月に教室を開講しました。
「堅苦しい」とか「厳しい」といったイメージを持たれがちなマクロビですが、それだと続かないため、教室では「おいしくて体にもやさしい」というコンセプトで、毎日続けてもらえるような形でレクチャーしています。子どもが生まれてからだと、夜間授乳などでなかなか勉強に時間を割けるひまがありません。だから、私がつかみとってきたものを、いま食生活や料理に悩んでいる妊婦さんや新米ママに活用してほしい、という思いがあります。一般的な料理教室というより、地域に住む女性たちの拠点になってほしいなとも思っています。

子育てと仕事。楽しみながら試行錯誤する暮らし

Q. 起業して大変だったことはなんですか?

A. 立てたスケジュールが思うようにいかないときがあること、でしょうか。たとえば、子どもの風邪をもらって、熱が40度近くになりながら、必死でアクセサリーを制作したことがあります(笑)。料理教室とかぶって慌ただしくなることもありますね。いつ、どれくらい注文が入るかわからないので、いろいろなことが重なるとてんてこまいになるんです。
ありがたいことに、頼まれる仕事が増えていて、求められるとNOとは言いたくない。とはいえ、いまは子どもが小さいので、彼らをしっかり見てあげたい時期。でも、自分の仕事もやりたい。そのバランスが適正にとれるよう、毎日楽しみながら試行錯誤している気がします。

たとえ失敗しても、何度でもやり直せる

Q. 起業に興味があるけれど、いまはまだ踏みきれずにいる女性にアドバイスをお願いします

A. 女性は柔軟さを持ったいきものだと思います。ライフステージに応じて働き方を変えていける性なのかと。だから怖がらずにチャレンジすれば、やってよかったと思うことはあっても、後悔することはないはずです。はじめて事業をやるとなると、すこし恐怖感があるかもしれないですし、決して小さな決断ではないでしょう。でも、途中で間違ったと気づいたら、やり直せばいいんです。いくらでも軌道修正できます。
人生の先輩にきくのもいいですね。私も地元関西に住む女性の先輩に「自分で事業をやるのに勇気がいるんです」と相談したことがあります。すると「そんなの、みんな怖いに決まってるやん。やるかやらんか、やろ!」と叱咤激励されました(笑)。自分の信念を貫いて、実現することが大事だと思いますね。

▽ 柳田薫さん

オーダーメイドアクセサリーブランド「VIOLUKA(バイオルカ)」代表兼デザイナー。
依頼に応じ、ファッションやインテリアのアドバイザーを請け負う。
加えて、玄米を中心にした身体にやさしい料理教室の講師を務めながら、なるべく薬に頼らない自然育児など、ママと子のための楽しく健やかなライフスタイルを提案している。
▽ アクセサリーショップ「VIOLUKA」
▽ クックパッド料理教室「葛飾新宿教室」

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2016.05.26

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Written by 池田 園子(いけだ そのこ)

岡山県出身。中央大学法学部卒業後、楽天、リアルワールドを経てフリー編集者/ライターに。関心のあるテーマは女性の生き方や働き方、性、日本の家族制度など。結婚・離婚を一度経験。11月14日に『はたらく人の結婚しない生き方』を発売。 写真撮影ご協力:青山エリュシオンハウス 撮影者:福谷 真理子