しなやかな私をつくる本 #25『顔ニモマケズ』

女性が生き方や考え方をアップデートし、強くしなやかな自分を目指すのに役立つ本を月に1冊紹介します。


「人間、外見がかなり重要」と悟って成長してきた私たち

一般的なメイクのみならず、「整形メイク」やプチ整形を含む美容整形……。それらの力を借りて、「今の自分よりもきれいになる」ことを目指し、美を磨くのは悪いことではないと思います。なぜなら向上心があるといえるから。一方で、それが過剰になると外見にとらわれすぎている、ともいえます。
周囲の大人たちから、「人間、外見じゃなく中身が大事なんだ」と言われて育ってきても、だんだんと「いや、そうでもないんじゃない?」と私たちは気づき始めます。やっぱり美男美女は、平凡な外見の人よりトクをしている(ような気がする)、と小学生くらいで感覚的にはわかるわけです。

容姿がいいと収入も高い!?

ミもフタもない話かもしれませんが、そういったトクは「数字」にも現れています。『美貌格差: 生まれつき不平等の経済学』(著者: ダニエル・S. ハマーメッシュ、出版社: 東洋経済新報社)によると、容姿が並みを上回る評価(評価は1~5の5段階)にあてはまる女性たちは、並みの女性たちより8%収入が高いことがわかりました。
男性では、容姿の評価が並み以下の人は、並みの男性より13%収入が低く、容姿が並み以上の男性は、並みの男性より4%収入が高いことが明らかに。さらに、見た目によって生涯賃金格差は2,700万円にも及ぶ、とのデータもあるほど。あくまで、ひとつの参考情報として受け止めてください。

うまくいかないことを外見のせいにしてしまう

そこまで数字を意識していなくとも、心のどこかに漠然と「美人と不美人なら、やっぱり美人寄りでいるべきだ」「見た目を良くしないといけない」などの思いを持ち、それらに縛られ自分の外見に何かしらのコンプレックスを感じ、改善しようと考える人は少なくありません。
その過程で、「恋人ができない」「気になる人にアプローチしても失敗する」「職場でコミュニケーションがうまくとれない」。それらは外見のせいだ、恵まれていない外見が関係している、と人生が思い通りに運ばない理由を外見にひもづけてしまうことも――。

でも外見はすべてじゃない。内からあふれる本質的な魅力を持つ人たち

外見は物事がうまくいかない理由のひとつかもしれません。そして、人が人を見て何かしらの判断をするときに、見た目という要素を重要視するのは事実です。でも、人の魅力は決して外見だけではない。悩みと向き合い葛藤し、乗り越えた先に内側から放たれる魅力が生まれ、人としてステキに映る。
そんなメッセージを伝えてくれるのが、「見た目問題」の解決に取り組むNPO法人マイフェイス・マイスタイルの協力のもと作られた、外見に傷やアザなどの症状を持つ「見た目問題」当事者のインタビュー集『顔ニモマケズ ―どんな「見た目」でも幸せになれることを証明した9人の物語』(著者: 水野敬也、出版社: 文響社)です。

外見に症状を持つ9人の方たちの生きざま

本書に登場する9人は皆、顔をはじめとする外見になんらかの症状を持っていて、街で出会うと「何か症状を抱えている方なんだな」と注目を集めやすい方々です。幼い頃、周囲の子どもたちからいじめられたりからかわれたり、また大人になった今でも、事情のわからない子どもから「あの人の顔、ヘン」など残酷な言葉を投げかけられたりすることも。
見た目が周りと明らかに違う……そんな症状と共に生きていくのは、いったいどういうことなのか、症状を抱えている本人でないと、実態はわかり得ませんし単純に「大変そう」と思うこともはばかられます。そして、症状がない者からすると「仕事を決めるときや人間関係において不都合はなかったのか」「恋人やパートナーを見つけるのに困らなかったのか」といった疑問がわいてきます。

動静脈奇形のある河除静香さんの物語

例えば、生まれつき鼻と口に血管の塊があって変形している、動静脈奇形という症状を持つ河除静香さんの物語を少しのぞいてみましょう。河除さんは現在、夫と子ども2人の4人暮らし。小中時代はいじめられることもありましたが、どんな状況でも明るくいたいという思いから、笑って対処していたといいます。お母さんの教育方針も関係していますが、なんて強く、凛とした人なのかと尊敬の念を抱かずにはいられません。
高校~短大時代は顔に症状があることから、「自分には恋愛は無理。恋愛なんて一生できない」と悩みを抱えていました。転機があったのは短大を卒業する前。「私みたいな顔をしてたら、好きな人がいてもどうにもならないよね」と言った河除さんに対し、友人が、そんなことを言うもんじゃないと泣きながら怒ってくれたというのです。河除さんにも恋愛の経験を経て、幸せになってほしいと願う友人の思いをくみ、以降は好きな人ができたら前向きに、向かっていこうと考え始めたそう。

「勇気を持って一歩を踏み出してみたら、良いことがありました」

職場で出会い、交際することになった現在の旦那さんも、河除さんの人生に多大な影響を与えた人のひとりです。旦那さんから「顔の症状のことを話してほしい」と言われ、症状の影響で鼻から出血しやすいこと、周囲からじろじろ見られることが嫌だと打ち明けると、「人から見られるのが嫌なら、俺が着ぐるみを着て君の隣を歩いてやる」と言ってくれ、河除さんは感動で胸がいっぱいになったと話していました。
その後結婚し、2人のお子さんに恵まれるも、出産を経て顔の症状が悪化してしまった河除さん。現在は外に出るときはマスクをして暮らし、他の人に症状を見られないよう、日々気を使って過ごしています。一方、顔の症状を生かしたひとり芝居を作り、公演するという挑戦的な取り組みも行っています。
そんな河除さんに、著者の水野敬也さんは、以下の質問を投げかけています。

「世の中には顔に症状がなくても自分の外見に自信がなくて積極的に生きられない人がいます。その人たちにアドバイスをするとしたらどんな内容になりますか?」(49ページより引用)

これに対し、河除さんは力強くこう答えています。

「今の私に言えることは、私は、これまでの人生で悩んだり不安になったりしながら、それでも勇気を持って一歩を踏み出してみたら、良いことがありました。私はただ、運が良かっただけなのかもしれません。でも、その一歩がなかったら、経験できなかったことであるのは確かです(中略)何か行動を起こした先に、そういう素晴らしい経験ができる可能性があるのなら、私は、これからも新しいことに挑戦したり、何かにぶつかっていきたいと思います……」(49~50ページより引用)

苦難を乗り越える過程で、人は磨かれ、魅力を高めていく

人が抱える悩みや問題はひとりひとり違います。ある人は自分の顔や体の一部に悩んでいるかもしれない。ある人は今置かれている環境に悩んでいるかもしれない。ある人は人間関係に悩んでいるかもしれない。そして、それぞれの悩みは他人が勝手に程度を評価したり、深刻度の大小を論じたりできるものではありません。
ただ、ひとつ言えるのは、どんな悩みや問題を抱えていようと、徹底的に向き合い、乗り越える方法を自分なりに考え尽くすこと。解決できないのであればそれらと折り合う方法を見出すことで、人は必ず成長し、磨かれるということ。人間として大きくなるということ。

まとめ

本書に登場した9人は皆さん、周囲とは異なる自分の見た目と真剣に向き合い、悩みながらも考え続け、付き合い方を模索してきた方々です。そのプロセスがていねいにつづられた本書は、現実から逃げずに戦ってきた人たちが、しなやかに、強く、美しく生きるヒントを授けてくれます。
外見の悩みだけではなく、さまざまな悩みを抱える人たちへ。くよくよせずに前を向いて生きること、たとえ失敗しても明日から生き直せばいいということ、問題を乗り越える度に人は高まっていくことを教えてくれる、素晴らしい一冊でした。

2017.08.14

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記事を書いたのはこの人

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Written by 池田 園子(いけだ そのこ)

岡山県出身。中央大学法学部卒業後、楽天、リアルワールドを経てフリー編集者/ライターに。関心のあるテーマは女性の生き方や働き方、性、日本の家族制度など。結婚・離婚を一度経験。11月14日に『はたらく人の結婚しない生き方』を発売。 写真撮影ご協力:青山エリュシオンハウス 撮影者:福谷 真理子