【連載!】旬なハチロクに会いたい Vol.5 高浜直樹さん

ライター/編集者の池田園子が同世代(86~87世代)の旬な人に「仕事の話」を伺う連載です。

文京区・千石駅前に緑色ののぼりが目立つ不動産屋があります。その名も「文京子育て不動産」。キッズスペースと思しき店内には、隅の方に机と椅子があり、「子どもたちの遊び場の中に不動産屋がある」と表現するほうが正しいかもしれません。良い意味で型破りな不動産屋を営むのは高浜直樹さん。もうじき二児の父になる高浜さんは「子育てというキーワードで千石を盛り上げたい」と話します。今回、高浜さんに仕事の話を伺ってきました。


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娘に地域に根づいて働く父の姿を見せたかった

質問

池田: 起業したきっかけは何ですか?

回答

高浜直樹さん(以下高浜): きっかけはいくつかありますが、一番は「サザエさん」に出てくる「花沢不動産」を見て、純粋に素晴らしいなと思ったからです。街で困りごとが発生したときに地域の方から相談してもらえる、花沢不動産のような役立つ存在になりたいな、と。

2年くらい前に宅建の資格を取得していたことも、大きなきっかけのひとつです。昔から憧れていたツリーハウスを作りたいと思い立ち、土地を貸してくれる人をネットで探したところ、手をあげてくれたのがとある地主さんでした。

その方に、不動産を貸すというのはどういうことなのか教えてほしいとお願いすると、「宅建をとるくらい本気なら教えても良いよ」と言われて、3か月くらい毎日ファミレスに通い、猛勉強して取得しました。

そのあとボロ家を買ってリフォームし、人に貸し出すといった大家さんの真似ごとをしていました。そこで、不動産業は自分に向いているのではと感じたのです。

もう一つは、娘が生まれて“父親スイッチ”が入り、汗を流して働く父の背中を見せたいと思ったからです。新卒で入社した楽天を退職し、父の会社で運営する通販サイトの手伝いをしていたのですが、毎日PCに向かっている背中よりも、地域と関り合いを持ちながら働く背中のほうがカッコいいよなぁ、と(笑)。

仲介後もお客さまと関わり続けたい

質問

池田: 現在どんなお仕事をしていますか?

回答

高浜: ファミリー向け賃貸物件の仲介業を行っています。「仲介しておしまい」ではなく、地域に住み始めた方との関係性を継続させて、一緒に子育てをしていくのが目的としてあります。

実際に街を自転車で走っていると、お客さまから声をかけられたり、お客さまがお子さんを連れて遊びにきてくれたりと、仲介後に素敵な関係を築けています。

事業ではありませんが、毎週月曜午後はこのスペースを地域に開放しています。社会福祉協議会でコミュニティスペースとして認めていただきました。

「急に子どもを預ける必要が出てきた」とか「子どもが泣きやまなくて困っている」とか、そんな悩みを抱えた方にも気軽に駆け込んでいただける場にしたいですね。

お客さまから直接感謝されることが嬉しい

質問

池田: 仕事をしていて嬉しい瞬間はどんなときですか?

回答

高浜: 引っ越しが完了したあとに、お客さまからお礼の手紙をいただいたり、メールで「この物件にして良かったです」と感謝されたりするときです。

サラリーマン時代は、お客さまから直接「ありがとう」と言われる仕事ではなかったので、今こうして直接感謝されることがすごくうれしいですね。

また、お客さまがお子さんと手をつないで、街の中を楽しそうに歩いているのを見るのも、幸せに感じる瞬間のひとつです。お客さまが地域になじんでいるのを見ると、自分のことのように喜ばしい気持ちになります。

物件の良くないところも正直に伝える

質問

池田: 仕事をしている上で大事にしていることはなんですか?

回答

高浜: 内見の際に物件の悪いところをズバズバ正直に言うことです。お客さまにとって、最良の家を探したいという思いがあるので。

その上で「自分がここに住んだら良い子育てができるかどうか」という視点で物件を見ることも大事にしています。ある意味で、想像力がかなり必要かもしれません。

お客さま自身も「都会の子育てをもっと楽しく、一緒に!」という、僕らが掲げる事業コンセプトに共感してくださっているので、今回見に行った物件があまり良くなければ、自然と「次の物件を探しましょう」となります。

「千石に住みたい」人を増やしたい

質問

池田: 異業種から不動産業に挑戦して、良かったと思うのはどんなことですか?

回答

高浜: 正直なところ、僕は不動産業に対し、プラスのイメージを持っていませんでした。花沢不動産には憧れていたのですが(笑)。

不動産屋になってからは、既存店舗のように、窓ガラスにベタベタと物件の資料を貼ったり、来店時にすぐ個人情報を書いてもらったりするのはやめよう、と決めました。不動産業界で長くやってこられた方とは違い、業界の常識をあまり知らないことが、良い方向に働いているのかなと思います。

お客さまとは雑談をしっかり楽しんで、おたがいのことを知り、仲良くなることに時間をかけています。予約制にしているので、比較的のんびり進めることが可能なのかもしれません。2~3か月、長くて半年くらいの付き合いになることが多いですから。

ファミリーは単身者と違って、簡単に物件を決められないのが特徴です。それを一緒に楽しめなくて「手間がかかる」と感じてしまう人だと、この仕事は続けられないと思います。

お客さまの数年先のライフプランを想像しながら、ていねいに物件探しをお手伝いし、結果的に「千石に住みたい」というファミリーが増えていったら良いな、と願っています。

▽ 高浜直樹(たかはま なおき)さん

文京子育て不動産 代表・宅地建物取引士。趣味は子育てや映画鑑賞、料理、DIYなど。

2015.12.16

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記事を書いたのはこの人

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Written by 池田 園子(いけだ そのこ)

岡山県出身。中央大学法学部卒業後、楽天、リアルワールドを経てフリー編集者/ライターに。関心のあるテーマは女性の生き方や働き方、性、日本の家族制度など。結婚・離婚を一度経験。11月14日に『はたらく人の結婚しない生き方』を発売。 写真撮影ご協力:青山エリュシオンハウス 撮影者:福谷 真理子