自分の心との対話、できていますか? ストレスや不調に悩むあなたへの一冊
とてもショックなことがあった。すっかり疲れてしまった。気分が落ち込む。精神的に不安定。なんだか体がおかしい。病院にいっても特に悪いところはないと言われる。
20代、30代の女性の多くは、一度はそんな経験をしているのではないでしょうか。
そんなとき、どう対処していますか? 友人や恋人に話してみる、病院にいってみる、体を休める、自己啓発本を読んでみる、カウンセリングを受けてみる……これらの方法をとりながら、なんとか毎日頑張っている人がほとんどかと思います。医師の適切な治療で効果が出ることもありますし、誰かに聴いてもらうだけで楽になることも、時間が解決してくれることもあるかもしれません。ずっと一人で抱え込むことだけは、しないでくださいね。
そんな女性に読んでほしい1冊の本があります。中島たい子・著『漢方小説』(集英社)、第28回すばる文学賞受賞作です。
主人公の苦しみ、模索、そして気づき
主人公のみのり31歳は、元カレから結婚すると告げられたのをきっかけに原因不明のふるえの発作を起こしてしまい救急車で運ばれますが、どこの病院でも「どこも悪くありません」「検査結果に異常はありません」と告げられます。しかしつらい症状は続き、仕事もままならない。
そこで、みのりは子どもの頃通ったことのある漢方診療所を訪れます。そこで出合った若い医師はみのりの発作の症状をずばり理解し、漢方薬を処方しますが、病名を告げません。そこでみのりが自分は何の病気なのかと尋ねると、医師は、病名はいらない、強いていうならあなただけの病気だと答えます。
ここから、漢方薬を飲みながら、みのりの自分自身の内面との対峙が始まります。次第にみのりは、自分が解決したいのはこの症状であるが、その奥にはもっと深い自分にとってのテーマがあるはずだ、とゆっくり、ゆっくり、戸惑いながらそれを探してゆく……その過程が穏やかに、ときにユーモラスに描かれています。
読んでいると、みのりが少しずつ自分の心を紐解いていくのを見守りながら、読み手も同じ問いかけを自分自身にせずにはいられません。
また、みのりの他にも、うつ病で長年たたかっている友人、自分も過去に不調な時期があったと言ってみのりを慰める一見完璧な歳上の友人女性、みのりの内面を鋭く指摘する毒舌の男友達などが登場し、皆それぞれいろいろな変化や不調を抱えながら折り合いをつけたり乗り越えたりしている姿に、みのりだけでなく読み手も「具合が悪いのは自分だけではないんだ」と気づかされ、お互いにつらい時期を順番に支えあう様子に心が慰められます。
そして、タイトルにもあるように、みのりが少しずつ東洋医学に興味を抱く様子も描かれます。基本的な東洋医学の概念が分かりやすく説明されており、近年注目されている東洋医学を知る良いきっかけにもなるかもしれません。
休むのだって、生きること
「ポジティブに!」「毎日を充実させよう!」「欲張りな女性が輝いている!」という風潮が強い世の中、気づかないうちに自分を駆り立て、疲れきってしまうこともあると思います。不調は、心と体からのサインです。
そんなときはペースを落として、ゆっくり休んで自分の内面と向き合い、また少しずつ少しずつエネルギーがたまったら、半歩ずつ歩けばいいのだと思います。立ち止まるのも考え込むのも決して悪いことではありません。
この本が、みのりの七転八倒する姿が、そんなときの1つの慰め、そして道しるべになれば……と願っています。