ある日突然、お母さんがいなくなった~『だから荒野』(桐野夏生/毎日新聞社)より~

2014.06.18

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Googirl読者の皆さんは、母親のことを「一人の女性」として考えられるようになったのはいつでしょうか? 家族のことを真剣に考えるのは、簡単なようで、距離が近すぎる分、実はすごく難しかったりしませんか?
筆者は「お母さん」は一生「お母さん」であってほしいと思っていたのですが、本当は母親も決して完璧ではない、一人の人間です。学校に行って、仕事をして、恋をして結婚した。そのことを忘れてはいけないなあ……と、ようやくアラサーになってから気が付きました。
今回ご紹介したい本は、人間の嫌な面を書かせたら右に出る者はいないと思われる、桐野夏生さん作の『だから荒野』です。
46歳の誕生日、身勝手な夫や息子たちと決別し、東京から1200キロの旅路へ出る主婦・朋美のお話です。
「家族」という荒野を生きる朋美は、家族を捨てて遠くへ行き、そこで何を見たのでしょうか?


人生はずっと荒野?

本書の主人公は46歳の主婦である朋美です。サバサバした性格の母親ですが、夫や息子の態度にはホトホト疲れ果てていました。「ママタク」と称され、四六時中、お迎えに呼び出され、また夫は浮気もしている様子。朋美の誕生日も、彼女は自分でレストランを予約し、自分で車を運転し、家族を乗せてレストランまで向かっていました。
それなのに家族はプレゼント一つ用意せず、帰りの運転があるからと、夫は朋美にはお酒を飲ませず、不満を言いながら食事をする始末。朋美はそんな家族に嫌気がさし、颯爽と立ち上がり「もう二度と家族と会うことはない」覚悟で、初恋の人に会いに行こうか、元彼に会いに行こうか……と悩みつつ、東京から長崎へ向かいます。
長崎までの道中、朋美は散々な目に合います。学生時代の親友と再会しても、微妙な距離感があることを感じたり、ほかにも詐欺にあったりと、驚くような体験が朋美を待っていました。
読んでいて爽快! となる展開ではないし、結末も「そう落ち着いたか……」と思うものなのですが、読者を全く飽きさせずに一気読みさせる大迫力な描写と、リアルに感じられる家族との「距離感」が、身に迫ります。

たぶん、人生はずっと荒野なのかもしれません。この結末は、結局何も解決していないような気もしたけれど、私は母親ではないので、朋美の本当の気持ちはわかりません。
家族だけれど、別々の人間。だから毎日、見落としていることはいくつもあるような気がします。
孤独と少しの希望を感じられる、家族小説です。「家族との距離感」を考えるきっかけになると思います。良かったら、読んでみて下さいね。

2014.06.18

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記事を書いたのはこの人

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Written by さゆ

87年生まれのフリーライター。 本とワンコとカフェが大好きです。 いつでもアワアワしています。 ツイッター:@sayulog  写真撮影ご協力:青山エリュシオンハウス 撮影者:福谷 真理子